子どもや家族の意見表明を前にした大人のあり方 ――「マインド」をオーストラリア視察から考える

執筆者

古屋 理恵

第47回(2022年)オーストラリア研修団員 児童家庭支援センターオリーブ 心理職員

本号のテーマについて

日本型早期支援を考える

児童福祉が「事後対応」から「予防・早期支援」へと大きく転換する今、海外研修の訪問国における先進事例と日本の現状を照らし合わせます。「早期支援」の理念や各国の多様な支援スタイルを紐解きながら、日本型早期支援モデルのあり方や、行政・民間・多職種が一体となる地域連携の可能性について、多角的な視点から議論を深めます。

目次

1.はじめに

私は、2022年のオーストラリアへの研修に参加させていただきました。ニューサウスウェールズ州(以下、NSW州)内の視察でしたが、そこには歴史的に対峙した相手の文化や背景を深く見つめながら社会全体で子育てを支援していく仕組みが確かに息づいていました。その土台には、オーストラリアとイギリス、それぞれの社会から見捨てられ虐げられてきた人々への心からの謝罪と敬意の醸成、過ちから真剣に学び、実際に変化に向けて行動していく絶え間ない努力の鼓動がありました。

子どもと家族が共生することが難しくなったことを社会に伝えるところから相談は始まる、言い換えれば社会に意見を表明した人を適切に支援するにはどのような姿勢が大切なのか、NSW州での学びから再考したく思います。

2.野田市虐待死亡事例から

私の勤める児童家庭支援センター(以下、児家セン)は千葉県にあり、野田市の虐待死亡事例は身近な地域で起こりました。この死亡事例の衝撃的な内容は、皆さまも知るところかと思います。報告書によれば、「子どもの意見が適切に聞き取られることなく、加害親に会わされるといった権利侵害」「アンケートを父に渡したことは子どもへの裏切りであり、子どもの意見表明権の封じ込めである」「本児はアンケートで教諭に自身のことを訴えることができたが、周りの大人がその声に応えなかったせいで、その後、本児は二度と訴えることをしなくなってしまった」とあります。本児が学校アンケートにおいてSOSを発していたのにもかかわらず、そのアンケートのプライバシーが守られず、意見が尊重されず、悲惨な結末になったことは権利擁護、とりわけ意見表明支援を考えるにあたって重要な事例だと考えました。

3.もし

 もしこの事例がNSW州で起こっていたら、どのような視点が大切にされていただろうか、視察先で聞いたお話をもとに考えていきます。

 (1)意見表明の前の意見形成支援

家庭外ケアを受ける子どもたちや障がいのある子どもたちの意見表明を支援する民間の支援機関CREATEを視察しました。CREATEの活動理念は「つながり、力を引き出し、変化を起こす」です。まず、当事者がCREATEとつながる、そのためにアウトリーチ支援を行い、当事者を訪ね、誕生日カードを出し、定期的にイベントを開催し、丁寧につながっていきます。そのつながりから、意見を形成できるように支援するプログラムを実行することで、意見表明ができるようにします。そして州議会などへ意見を上げていく活動をしていました。子どもや家族が支援機関につながるとき、困ったという意見表明をしていますが、その意見をともに深堀していくと、漠然とした思いはあるのに形にならないということが往々にしてあります。それを共有することから、どういうことなのかまで形にして、実際どうするのかまで対話できるようになることが、意見表明権を擁護する、ということになると考えます。

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CREATEの理念の図示(出典:CREATE Foundation)

(2)支援者自身の振り返り

難民など多様な背景を持つ里親の支援を行っている非営利機関Settlement Services Internationalでは「自分自身を振り返ることができること」が支援にとって大切だというお話がありました。多文化主義の中で、自身の意識的・無意識的偏見や思い込みがあることを〈前提〉とし、支援者としての自分の目が常に偏っていないか洞察していくことで、その子どもや家族が持つ文化を大事にした支援を行うことができるのではないかとのことでした。ともすれば、福祉という言葉の響きが持つ「善性」の匂いに支援者が自身を惑わしてしまうこともあります。このような視点を持つことで、子どもや家族が表明した意見をどのように扱うか、おのずと決まってくるものではないかと考えられます。また、多様な事例や家族に出会う児家センの現場においても、自身の視点について多角的な角度で振り返ることは、目の前の人の意見を尊重する際に、非常に重要です。

  • (3)キンシップの機能

野田市の死亡事例報告書によれば「亡くなる5か月弱前、父に虐待された●●ちゃんは祖父母宅に連絡して、父から距離を取ることに成功していた」とありました。福祉サービス提供機関Unitingでは、政府主導のもと、親戚や親しくしている人(いわゆるキンシップ)を優先的に里親にする取組みを推進しています。キンシップによる里親を推進する理由は、いろいろありますが、その中でも文化や言語、朝のお祈りの方法から異なる文化の中で養育されるより、なじみある環境を持つキンシップのほうがより子ども自身が自分のルーツとつながることで帰属意識が強化され、健康的な面を支えると考えているからです。本児も児童相談所や市ではなく、身近な相談者である祖父母に助けを求めており、インフォーマルな資源を模索し連携を取っていくことは重要であることがわかります。

  • (4)現場に職員とリーダーが赴き、しっかり相手の文化・価値観・歴史を知ること

オーストラリアは、先住民が営んでいる世界にイギリス人が入植し現在の国が興っていった経緯があります。その中で白豪主義により、先住民の子どもたちが説明もなく強制的に引き離され白人として育てられるという歴史がありました。このことは「盗まれた世代」としてオーストラリア国内で広く知られることとなっており、先住民当事者権利擁護団体のNSW Child, Family and Community Peak Aboriginal Corporation(AbSec)では自身が成人になるまで、先住民の血を引く人間だったことを知らずに生きていた、という長老のお話をうかがいました。政府が公式に「Sorry」という言葉を用いて謝罪しましたが、今でもなお双方に禍根を残していることは否めません。長老は「13人の孫は5年間で2回会えるか、会えないかという状況で、彼らとのつながりも失ってしまっています」と話されていました。

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Unitig歴史博物館、国民の意識に刻まれているSORRY

この状況の中でサインズオブセーフティというケースワークの手法(以下、SoS)の提唱者のアンドリュ・タネル氏は先住民の子どもの児童保護が減少した州の理由の一つとして、現場に上級幹部レベルのリーダーが赴き、支援者と話をし、コミュニティや家族と話しながら、改革のプログラムを進めていったことを挙げていました。つまり、現場はもとより、支援方針を決定するリーダーが子どもと家族の暮らしを、つまり支援のベースになるものを肌感覚的に知ることで、悪循環を断ち切る方法をより現実的に変化させて、改革を実行可能とし、結果を出しているとのことでした。

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日本語に訳されたサインズオブセーフティの本

以上のことから、支援現場において大切なことは、意見形成の支援、表明についての支援、そしてその意見がどのようにつくられていったのかを見立てることです。そのための組織全体の現場主義、そして支援者が自身をモニタリングしていく力などが必要なのではないか、ということがわかってきました。また、子どもが助けを求めやすいキンシップの資源との連携も大切です。死亡事例報告書の内容から考えると、そのどれもが少しずつ欠けており、一人の尊い命が奪われてしまったのではないかと推察します。

児家センでは、日々家庭内での意見の食い違いについて、双方の意見をどのようにまとめていくのかについて苦戦する日々です。お互いが別の権利を持ち、主張する中で、やはり、自身がちゃんと表明できるように意見形成を行い、表明することを支援し、その中で相手の文化と文脈を知りまとめていく。その過程で常に支援者自身の振り返りを行いながら、話し合いを重ねていくことが、支援をする際の土台になると感じます。

最後に、死亡事例報告書に指摘されている多機関連携の難しさについて、先住民スタッフと白人スタッフ、そして関係機関同士の連携課題をどう解決しているのかについて調査し、再度現場に還元することも今後の課題としたく思います。

文献

・子どもの虹情報研修センター(2022)「オーストラリアの児童福祉制度視察報告書」
・野田市児童虐待死亡事例検証委員会(2020)「野田市児童虐待死亡事例報告書(公開版)」
・公益財団法人資生堂子ども財団(2023)「第47回(2022年度)資生堂児童福祉海外研修報告書(オーストラリア:ニューサウスウェールズ州シドニー)」

古屋 理恵

千葉県在住。臨床心理士・公認心理師。2011年に特定非営利活動法人メンタルケア協議会・柏市教育委員会を経て、2012年から社会福祉法人晴香 児童家庭支援センターオリーブ職員。

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