早期支援と地域連携

まとめ

執筆者

金井 剛

第41回(2015年度)カナダ研修団長 開花館クリニック/国立武蔵野学院 医師

本号のテーマについて

日本型早期支援を考える

児童福祉が「事後対応」から「予防・早期支援」へと大きく転換する今、海外研修の訪問国における先進事例と日本の現状を照らし合わせます。「早期支援」の理念や各国の多様な支援スタイルを紐解きながら、日本型早期支援モデルのあり方や、行政・民間・多職種が一体となる地域連携の可能性について、多角的な視点から議論を深めます。

目次

1.はじめに

筆者は2001年に大学病院の児童精神科から、希望して横浜市の児童相談所に赴任しました。虐待する親や虐待された子どもとの面接や、一時保護される際の子どもの健康診断はもちろんのこと、児童福祉司に連れられて家庭訪問をし、施設での適応不調や問題行動があるとカンファランスのために児童福祉司や心理師とともに施設訪問をしました。

赴任してからの数年間に強く印象に残った4つの言葉がありました。1つは、児童養護施設で無断外泊など繰り返している子について議論しているときに、興奮した施設職員が怒気を込めて訴えてきた「施設は孤立してるんです」という言葉でした。2つ目は、別の児童養護施設で、部屋にこもり排尿をあちこちでする子のカンファランスで、入院も視野に入れて児童精神科受診を勧めたときに返ってきた「精神科を受診させることは施設の敗北なんです」という言葉でした。3つ目はベテランのケースワーカーが笑顔で語った「施設に入れたらワーカーの仕事は終わりなんです」という言葉でした。これらは当時、施設は地域や医療機関やさらに児童相談所からも孤立し、連携のない中で子どもたちと向き合っている現実を示していました。

そして4つ目は、その頃言われていた虐待予防という言葉でした。医師である自分にはその「予防」は単なる「対応」にすぎないのではないかと感じられました。

それから約25年。施設にはボランティアや人権委員が入り、「医療バブル」とも言われる医療への依存、入所児童への児童相談所の関与や再統合の働きかけが進み、施設の孤立は改善してきています。また、早期支援や切れ目のない支援という言葉は当たり前のものになり、こども家庭庁の設立、児童福祉法の改正、児童福祉と母子保健のこども家庭センターへの統合など、名目だけではない変化が広がりつつあります。

それでも諸外国の進んだ側面と比較すると、それらはいまだ不十分で途上にあるといえるのでしょう。今回「早期支援」と「地域連携」をテーマに取り上げましたが、各筆者の論を通じて、これらは密接に絡み合っていることがわかります。本号において示された「法的根拠」「行政の役割」「早期介入」「多機関(地域)連携」「切れ目のない支援」「マインド」などのキーワードを中心に、今後さらに歩むべき方向を考えたいと思います。

2.ゼロ次予防ということ

厚生労働省は2024(令和6)年度から健康日本21(第三次)でゼロ次予防の考え方を導入しました。それは「個人単位ではなく、地域や環境そのものを整えることで人が自然に健康な行動をとれるようにする取組み」であり、それによって健康を増進し、病気を予防しようとすることです。

フィンランドのネウボラ、アメリカの「家族ファースト予防サービス法」や「ディファレンシャル・レスポンス」、フランスの「専門エデュケーターによる重層的支援」などはすべて、まずは国が法律を整備し、在宅支援への財源シフト、連携すべき機関や役割、人材育成カリキュラムなどについても明確に義務として定められているがゆえに定着し機能しています。

また、現場で働く人材の育成や地位や経済の保障、科学的な効果の検証なども国や自治体が整えるべき予防策となっています。ネウボラにおける連携のキーマンとしての保健師、ドイツのソーシャルペダゴーグ、フランスの専門エデュケーターなどは社会的に認められた国家または州資格であり、その育成カリキュラムやサポート体制は全て国/州や国の研究機関あるいは自治体がその責務を担っています。またフィンランドのように健診の受診が出産一時金を受け取る要件となっているなども国の工夫の一つです。それゆえ大きな予算が組まれ、その経済的負担は大きく、今後の継続が課題となっているほどです。

これらの法律を定め、予算を組み、児童福祉分野で働く職員の明確な資格化やその地位の保障、さらに人材育成などに対する責務を中心的に担う行政の役割こそが、児童福祉におけるゼロ次予防といえます。

3.早期(予防的)支援と地域(多機関)連携

早期介入の意義と有益性については、麻生氏がイギリスのアーリーヘルプの紹介の中で、社会的養護児童の減少、財政負担の軽減、支援者の定着率向上の3点に整理しています。さらに、山根氏はアメリカでの事後対応型から予防サービスのへの転換が支援の選択肢を広げていることを、松本氏はフランスで専門エデュケーターが中心となって、家庭に近い場で支援することの有益性なども挙げています。

これらの国々の早期からの支援には、共通している点が3つあります。第一に、多機関や地域が連携してそれにあたっていること、第二に、地域連携には中心となる専門家が存在していること、第三に、後で述べる当事者中心であることです。これらは松原氏が報告しているドイツでも(松原氏の実践でも)、小松氏が紹介したフィンランドでも、古屋氏の記したオーストラリアなどでも明確です。

かつて横浜市では、虐待対応を18の区に分散するか2か所の児童相談所に集約するかの議論があり、児童相談所に人員配置を集中させました。虐待対応件数の増加によって組織は徐々に巨大化しましたが、それでも対応が追いつかなくなり、今年度5か所目の児童相談所を設置しました。一方で、一次・二次予防の必要性が高まるにつれて、児童相談所の管轄地域が広く、地域で家庭を見守る役割を担うことが困難になり、15年ほど前に中央児童相談所に地域連携課をつくり、区との連携強化と人材交流を進めましたが、それでも二次・三次予防に追われています。現在、児童相談所は全国243か所で、平均で50万の人口を担当しています。地域に根差した支援を行うには適切な管轄人口(数万人が理想的と思われる)があると考えられ、児童相談所がそれを担うことには大きな困難があるようです。

また山根氏が指摘するように、児童相談所から家族支援を民間委託しているケースはわが国では稀であるといえます。一方で児童相談所が肥大化しても通報と保護などの対応に追われてきめ細かい家族支援は困難な現実があり、こども家庭センターに加えて幅広い民間機関の活用が必要な段階になってきています。

多機関連携の制度化は各国で進んでおり、ドイツでは法的根拠に基づき、保健所、学校、警察、病院、相談所など、幅広い機関のネットワーク設置が義務づけられています。フランスでは家庭裁判官とは役割の異なる子ども裁判官、イギリスではチルドレンズガーディアンなど、司法との連携も強化されています。

横浜市ではMEW研究会という、医療、教育、福祉の合同研究会が30年以上前から年2回ずつ開かれています。医療機関の医師や職員、指導主事や教員、児童相談所職員が持ち回りで開催して、終了後には懇親会も開かれ、お互いに知り合い情報交換します。10年ほど前からは裁判所の調査官も参加するようになりました。あるいはほかの地方に講演に呼ばれたときには、顔見知りになり関係をつくるために地元の医師に講演依頼するよう話しています。そのようなお互いが顔見知りになることも地域連携・多職種連携には必要なことです。

また、これらの連携を構築するうえで、中心となる有資格専門職の存在も日本と異なる点です。フランスの「専門エデュケータ―」は施設や学校やさらにインターネットによってもその中心となって支援の輪を広げ、さまざまな機関や形で支援を構成しているとのことです。ネウボラでは保健師が中心となり、オーストラリアでは上級管理職級の職員がリーダーとなって家族支援を行っています。連携することは責任の分散という意味もあります。そのため連携は時に無責任な集団になることがあります。それを避けるためには、多機関の連携で、中心となる「リーダー」のもと役割を明確化させ、各機関がその役割に責任を持つことが必要です。わが国でも多機関連携におけるこども家庭センターや社会的養護施設の役割が徐々に増しつつありますが、それらの機関で、中心となる有資格専門職が制度として明確には位置づけられておらず、大きな課題といえます。

4.切れ目のない支援のための「四次予防」ということ

筆者は、虐待の連鎖や虐待予防のために「四次予防」という概念が必要だと考えています。それは、虐待を受けた子どもが青年期・成人期において、居場所や治療的な機会や場を継続的に持ち、安定した就労を得て、より健全な恋愛をし、家庭を持つ可能性を高めることによって、虐待が発生する要素を軽減することです。多くの施設では、丁寧に育てた子どもがその後消息不明になったり事件を起こしてしまうといった、心痛む経験をされたことがあることでしょう。特に逆境的環境下で育った子どもではその傾向が多いことと思います。松本氏が紹介したフランスの「青少年の家」のように、11歳から25歳までの児童・青年を対象に、医療の場が用意され治療的環境を提供できることが望ましいですが、関わった子どもが青年期となり、サロンのような居場所があり相談できる相手が存在するだけで、危機を脱し救われることが多いと考えます。その関係はやがて下の図に示すように妊娠・出産から子育てへの支援、すなわち一次予防への円滑な移行につながり、さらにその後の切れ目のない支援へと連鎖していくことでしょう。

松本氏の施設では、この青少年の家を参考に、長崎で「えんくる」を開設しました。毎月250名以上の利用者があるそうです。年齢による課題や支援の目標の違いなど困難さは多くありえますが、子どもから青年期の居場所として相談の場として有意義な場といえます。

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図 ゼロ次予防から四次予防までの連鎖(筆者作成)

5.目指すべき方向性

わが国の児童福祉、とりわけ被虐待児童の保護と家庭支援の役割は、依然として児童相談所に偏在しています。麻生氏が述べたように、児童相談所が対応した事例の2%が社会的養護施設に入所し、残りの98%は本来地域での支援を要しています。そして山根氏が指摘するように、児童相談所は虐待への初期対応や子どもの保護に追われ、その役割を十分には担えなくなっています。

それらを地域で支援し治療するため、国は改正児童福祉法によって、市区町村のこども家庭センターが新たにその役割を担うという方向性を示しました。そして「訪問による生活の支援」「児童育成支援拠点事業(居場所支援)」「親子関係形成事業」が新設され、こども家庭センターを中心とした地域連携によるサポートプランの作成を求めています。しかし、市区町村に委ねられたセンターの設置は努力義務であり、こども家庭庁の設置状況調査によると、2026年4月現在14%の市区町村で未設置であり、保健師(兼務が半数以上)以外の専門職の配置は10%未満と低値でした。また「令和6年度市区町村こども家庭センター等状況調査」によると、設置地域の課題として、サポートプランの作成そのものの理解が不十分(73%)、人材確保が困難(60%)、連携先の資源の確保(64%)などが挙げられています。このように自らも認めるように専門性も高いとはいえず、特に統括支援員の確保が困難な現状があります。

専門性の向上のためには、子ども家庭ソーシャルワーカーのような専門資格の充実や拡充が望まれます。フランスの代表的な(社会教育職)資格である専門エデュケータ―の資格獲得には3年間のトレーニングを要します。専門性を高めて地域支援の中核として育成するためには、即席ではないトレーニングが課されるべきで、さらにその後の研修機会や場も明確に示され、それに応じて資格や給与なども高く保障されることが必要です。そのうえでこども家庭センターへの配置を制度化し、「リーダー」としていく必要があります。

こども家庭センターは児童相談所よりもその担当地域や人口規模が小さく、より地域に根差し家庭に近い位置にあります。こども家庭センターの設立趣旨の一つは家庭訪問などアウトリーチによる支援ですが、地域の中に拠点をつくり、ほかの関連機関と併存させることも可能です。児童相談所や行政機関よりは地域や家庭に近い施設、いわば「ミドルリーチ」を実現することができます。それによって子どもから青年の支援の場、四次予防の場として機能する可能性も有しています。大村子供の家が運営する多機能型児童家庭支援センターの建物には青少年の居場所である「えんくる」が併設されています。一つのモデルになり得るのではないでしょうか。

例えば、児童発達支援センターは福祉型と医療型とに分かれ、目的や対象を異にしていますが、近接または連携することで、医療的な支援や社会的養護の経験者の緊急の避難場所とすることも可能かもしれません。今後のこども家庭センターの機能強化や連携強化、新たな施設の統合や機能拡充、さらにはそれらを支える人材育成が急がれます。

6.おわりに――「子どもや家族中心」と支援する「こころ」の大切さ

早期支援における共通点である「当事者中心であること」について述べます。多くの児童精神科医は、患者さんが初めて受診したときに、生育歴を必ず聴取します。相手がどんな子であり親であるのか、どんな人生を送ってきたのかをまず知ろうとして、そして共感しようとします。児童福祉の分野に身を置くようになってもこの姿勢は変わることなく必要なことでした。

小松氏は「本人や家族の思いを尊重して持てる力を引き出す」、山根氏は「家族を中心として地域を基盤とした支援という共通認識を持って」、松原氏は「彼らの文化や習慣を尊重しつつ……日常生活に即した支援……関係性がなければそれが届かない」、古屋氏は「つながり、力を引き出し、変化を起こす」と述べています。それらはすべて子どもと家族を中心として彼らの意見を尊重し、地域に入り込んで日常生活に即した支援を行うことで変化が生まれるという点で共通しています。人は自分の意見や文化が尊重され、共に喜びや楽しみを分かち合い、共に悲しみを分け持ってくれる身近な存在に心を開きます。家庭に上がり込んで話をして、古屋氏が紹介したように、イベントを開催して共に参加し、誕生日を祝うような、そんな関わりの重要性がほかの筆者の行間からもうかがえます。

さらに逆境的な環境で育った子どもたちは大人の間で上手く立ち回ることに慣れています。その子どもたちに対して揺るぎなく付き合い寄り添っていくためには、古屋氏のいうように「自分自身を知ることができることは支援にとって大切」で、これもほかの著者も同様の認識を示しています。

麻生氏の述べる育成体制や研修体制が整い、継続して関与し関係性を持ち、その成果が社会的に認められるときに、関わる者は自分の仕事に誇りを抱くことができます。その結果、フランスでは自らをミリタン(信念を貫く人)と呼び、オーストラリアではマインドをもって支援するといえるような状況が生まれるのではないでしょうか。

文献

・こども家庭庁(2025)「市区町村(こども家庭センター等)状況調査の結果について」(最終アクセス日:2026年9月13日)

金井 剛

群馬大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センター小児科レジデント修了後、横浜市立大学精神神経科、関東中央病院などの精神科、横浜市大小児精神科、横浜市中央児童相談所、三重県立小児心療センターあすなろ学園長、三重県立こども心身発達医療センター長として勤務。2022年より現職。日本児童青年精神医学会前理事、同学会福祉に関する委員会前委員長。著書は『福祉現場で役立つ子どもと親の精神科』(明石書店、2009年)『子どもの精神科入院治療-子どもを養育するすべての人へ』(共著、明石書店、2021年)など。

2026.10.15

子どもや家族の意見表明を前にした大人のあり方 ――「マインド」をオーストラリア視察から考える

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