世界の子ども福祉~実践と未来~
第3回テーマ
「日本型早期支援を考える」

執筆者
松本 幸治
第46回(2021年)フランス研修団員 大村子供の家 施設長
本号のテーマについて
日本型早期支援を考える
児童福祉が「事後対応」から「予防・早期支援」へと大きく転換する今、海外研修の訪問国における先進事例と日本の現状を照らし合わせます。「早期支援」の理念や各国の多様な支援スタイルを紐解きながら、日本型早期支援モデルのあり方や、行政・民間・多職種が一体となる地域連携の可能性について、多角的な視点から議論を深めます。
2021年に第46回研修団の一人としてフランスの取組みを学びました。残念ながら、当時はコロナ感染症のパンデミックの渦中にあり、現地訪問は叶わずオンラインでフランスとつなげての視察や講義となりました。時差の関係で日本時間夜遅くから研修が始まり、時には日付が変わるまで学習する日もありました。フランスワインを現地で楽しめなかったものの、オンラインならではのユニークな学習方法により、移動時間が短縮され、チャットや自動翻訳機能を駆使したやりとりが可能となり、結果的には多くの情報が得られた実りの多い研修となりました。
私は前職や留学の関係で、ヨーロッパに4年ほど住んでいました。ヨーロッパの中でもフランスは独特な文化を有し、とりわけ「自由」と「人権」を重んずる国民性と、フランス革命など国民が歴史を通じて勝ち取ってきた誇りがあり、それが社会的養護の実践にも大きく影響していると感じました。今回フランスにおける早期支援を、ソフト面ハード面双方の一例を見ながら紹介させていただきます。
フランスの社会的養護は一言で表現すると「ミルフィーユのような重層的な支援」であり、日本でありがちな部門ごとの縦割り支援ではないことに驚かされます。予防的支援から重篤なケース対応まで細かい網の目が張り巡らされているようなイメージです。例えばエデュケーター*という国家資格を有する「子どもの教育・育ちの専門家」が、施設や学校、福祉機関、路上、あるいはインターネット上でも活動しており、支援が必要な子どもたちの世界に自然に入り込み、寄り添う仕組みとなっています。日本でいう教員資格、保育士、社会福祉士資格を組み合わせたような資格であり、バカロレア取得後に3年間のトレーニングを受ければ、「専門エデュケーター」の国家資格(Diplômed’Étatd ’Éducateur Spécialisé: DEES)を取得することができます。役割としてはドイツや北欧で見られるソーシャルペダゴーグ(社会教育学士)に近い面があると私は感じています。彼らは子どもたちや家庭の生活場面で必要に応じて伴走しながら問題改善へと導いていく点で、社会的養護に欠かせない存在といえます。フランスでは社会的養護に従事している人々が自らをミリタン(社会的信念を貫く人)と呼び、使命感を持って取り組んでいました。そのほか、子ども裁判官(子どもの事案を専門に扱う裁判官)の存在など、ソフト面で支援が必要な家庭や子どもたちの身近に寄り添う専門職が多いという印象を受けました。デスクワークや手続きに追われているのではなく、子どもたち一人ひとりと対等に向き合おうとする姿や、人間臭さというか、現場主義的な熱さといったものをフランスの社会的養護では感じることができました。
ハード面での早期支援の取組みとしてとりわけ私が関心を持ったのは「青少年の家(Maison des Adolescents: MDA)」でした。日本では最近になって小学生を対象とした子どもの第三の居場所(例:学童クラブや子ども食堂)が全国的に増えてきましたが、中高生や青年期を対象とした居場所はまだ少ないと感じており、このフランスにおける「青少年の家」は、これから日本でも必要になるかもしれないと感じました。
青少年の家は主に11〜25 歳の青少年の精神的なケアを行う施設です。病院併設の医療治療型と、アソシエーション(日本でいう社会福祉法人のようなもの)が運営し地域のコミュニティーサロンとして機能する社会福祉型があり、フランス国内で約100か所(2021年時点)存在します。いずれも国や地域の公的予算で運営されています。
医療治療型は入院につながる医療的な対応も可能で、外来では親の同意がなくても医療相談ができます。さらに子どもの治療と支援だけでなく、親も無料で相談支援を受けることができます。背景として、公立の心理医療センター(Centre Médico-Psychologique: CMP)がいつもいっぱいで予約がとりにくく診察まで数か月待たされる場合があること、また医療機関の受診料が高額といったフランスならではの事情があるようです。特に若者の自殺企図やうつ病、性被害者など「待ったなし」の問題に対して、予約なしで即座に対応できるような配慮がなされていると感じました。

医療治療型MDAの「ソレンの家」
日本においても中高生のヤングケアラーやSNS上の性被害、不登校、自殺企図、うつ病などが社会問題化しつつあります。そんな中、フランスにおける青少年の居場所や、エデュケーターのような関わり方が日本で必要とされる時代が来るかもしれません。大村子供の家でも、この青少年の家をモデルとし、2026年4月に「カフェ えんくる」を創設し、オープン以降、毎月延べ250名を超える子どもたちが利用しています。地域から来る子どもや施設の子どもも利用しています。日本のエデュケーター的存在である、児童家庭支援センター職員がカウンターに常駐しており、子どもたちに無料でジュースや軽食を提供するなど気軽に来られる雰囲気づくりを行っています。このカフェスペースは、必要に応じて子どもたちをそれぞれの濃淡に応じた支援につなげる入口として考えており、例えば単に勉強だけして帰る子もいれば、深刻な悩みを児童家庭支援センター職員に相談する子もいて、場合によっては児童相談所とも相談のうえ、2階の一時保護施設で保護することもできるようになっています。誰でも利用できる雰囲気づくりや行ってみたいと思わせる工夫として、インテリアデザインにもこだわりました。訪れる子どもが固定化しつつあったり、男女の距離が近くなりすぎるという問題もありますが、「社会を学ぶ場」として、職員が子どもたちに関わりつつ、試行錯誤で受け入れを続けています。

カフェ えんくる
フランスのエデュケーターや青少年の家をから学んだこと。それは「早期支援」=「子どもの日常の中にある」ということです。我々が子どもたちにとっての日常の一部になれるよう、これからも開かれた施設として、子どもたち一人ひとりに向き合いたいと考えています。
【注】
* エデュケーター(Éducateur)は「エデュカタ」とも記載されることがあり、同義語であるが、下記文献に合わせる形で「エデュケーター」という表記で統一した。
【文献】
・公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2022)「第46回(2021年度)資生堂児童福祉 海外研修報告書(フランス:パリ、セーヌ=サン=ドニ)」
松本 幸治
立命館大学産業社会学部人間福祉学科修了後、国際協力機構(JICA)に入構。東京本部にて開発途上国の障害者支援プロジェクトを担当。海外はシリア事務所やバルカン事務所に勤務。JICA退職後、エジンバラ大学院カウンセリング修士修了。現在児童養護施設大村子供の家施設長。社会福祉士、スコットランドカウンセリング資格(COSCA Certificate)。
子どもたちが希望をもって生きていける社会の実現を目指し、
資生堂子ども財団とともに子どもを支える仲間を探しています。