外国人支援の実践を通して、支援にアクセスしにくいとは何かを考える

執筆者

松原 恵之

第38回(2012年度)ドイツ・イギリス研修団員 社会福祉法人一粒会FAHこすもす 母子支援員

本号のテーマについて

日本型早期支援を考える

児童福祉が「事後対応」から「予防・早期支援」へと大きく転換する今、海外研修の訪問国における先進事例と日本の現状を照らし合わせます。「早期支援」の理念や各国の多様な支援スタイルを紐解きながら、日本型早期支援モデルのあり方や、行政・民間・多職種が一体となる地域連携の可能性について、多角的な視点から議論を深めます。

目次

1.ドイツにおける移民(難民)政策

私は、2012年の第38回資生堂児童福祉海外研修にて、ドイツ・イギリスを訪問させていただきました。「今後の児童福祉施設の機能と特長」「里親とその支援を行う施設とのパートナーシップ」をテーマとした研修でしたが、ドイツでは移民(難民)に関わる課題に対して、ドイツ語を話せない方への支援プログラムが展開されていました。

ドイツでは、第二次世界大戦後の旧西ドイツ経済復興の際の労働力不足を補うため「ガストアルバイター」と呼ばれる出稼ぎ労働者を受け入れました。その後、ガストアルバイターの定住化や家族呼び寄せ、難民受け入れなどにより、移民が増加しました。その第2世代・第3世代の子どもたちが義務教育すら十分に受けられず、就職もままならない状況でドイツ社会の中で乖離した「並行社会」を形成しました。

2000年代初頭、こうした状況を受けて「ドイツへの移住ではなく統合を」という考え方が提言され(「ジュースムート委員会報告書*」)、移民には社会統合コースを受けることを義務づけ、さらに就学前の子どもへのドイツ語学習にも力が注がれるようになりました。

視察先であるノルトライン・ヴェストファーレン州は、2010年当時、州人口の36.9%が移民にルーツを持ち、年齢が低いほどその割合が高くなっていました(3歳未満では42.4%)。同州や州都であるデュッセルドルフ市でも、ドイツ語教育や幼児教育の充実が図られていました。民間施設では、SOS子ども青少年支援センターは移民が多く暮らす地域を活動拠点とすることが多いとの説明もありましたし、児童入所施設(ハイム)や保育所、移民へのケアなどを行う多機能複合施設であるディアコニーデュッセルドルフや母子入所施設のハウス・アーデルハイトなどでも、移民や外国人に対するケアや自立支援が行われているとのことでした。

このように、行政機関や各視察先において当たり前のように移民に対する支援が展開されていましたが、日本国内の支援に目を移すと、外国人支援はあくまで特別なニーズのある方への支援の一つという位置づけであるように感じます。

しかし当時から、全国母子生活支援施設協議会の調査では、全国の入所者のおよそ1割が外国籍であるという結果が出ており、支援現場には外国人の利用者が存在していることがわかります。そのため、まずは支援が必要な方のひとりとして、当たり前にその存在を認めていくことが必要だろうと考えていました。

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SOS子ども青少年支援センター

2.支援にアクセスしにくいとは何か

(1)FAHこすもすにおける外国人支援

私が勤務している社会福祉法人一粒会FAHこすもすは、外国人支援を特徴とする母子生活支援施設です。当法人は、「日本人と外国人の子どもが共に育つ家を創り、偏見を持って人を見ない子どもを育てたい」という思いから児童養護施設を開設し、子どもだけではなく困難な状況にある外国人女性とその子どもたちへの支援も必要だと考え、1991年に母子生活支援施設も開設しました。

これまでの入所世帯のうち6割強の母親が外国籍であり、一時保護等も含めると26か国の方が利用してきました(2026年7月1日時点)。

私たちの行う外国人支援は、日常生活に即した日本語の学習機会の提供、在留資格に関することや手当など各種制度の説明と手続き支援が中心です。身分の整理(婚姻関係の手続き)のための裁判所や行政機関、病院への同行支援なども行います。また、日常の関わりの中で、本人の文化・価値観を大切にしつつ、日本の文化や慣習を知ってもらうための支援をしています。

日本社会福祉士会によると、滞日外国人には「言葉の壁」「文化の壁」「制度の壁」「心の壁」「アイデンティティの壁」の5つの壁があるとされています。

実際に当施設の利用者像からは、日本語の不自由さから十分な意思疎通が図れず、自らの訴えたいことが伝わらない、支援者の助言が理解できないという姿が浮かび上がります。さらに在留資格によっては利用できない制度があったり、どんな制度があるのかすら知らない、説明されても理解ができない、煩雑な手続きはできないという訴えも聞かれます。

文化的な背景については、同じ国籍であっても年代や生まれ育った地域で大きな違いがあるため、外国人とひとくくりにせず、それぞれの言葉にしっかりと耳を傾ける必要があります。

時に行動規範の違いに戸惑うことさえありますが、心の壁を取り払い、「違いがあること」を認め、非審判的な態度で対応することが必要です。例えば、ベルトで子どもを叩く親がいます。例えば、学校なんて行かなくていいから家の手伝いをしなさいと言う親がいます。母親自身も、母国でそのように育てられてきました。つまり、それがその方が知り得ている子育ての方法ということです。この場合、「それは虐待だよ」と言うだけでは、なかなか受け入れてもらうことは難しいでしょう。その方の話に耳を傾け、「そうだったんだね」とこちらが理解できたときにこそ、相手に伝わる伝え方ができると思っています。

言葉の壁の解消のため、必要に応じて母国語の通訳や機械翻訳を使ったやりとりを行います。このとき、本人がどのように理解したかを確認しながら進めて行くことが大切です。

日常の生活の中では「やさしい日本語」によるコミュニケーションを心がけています。これは、「優しい日本語」であり「易しい日本語」でもあるという意味で、阪神・淡路大震災の際に必要な情報を受け取れずに被災した多くの外国人がいたことから、外国人にも正しい情報を伝えるための取り組みとして始まったものです。短く、簡易な言葉・表現で情報を正しく理解してもらう方法で、例えば「在留資格の更新申請には公共交通機関でお越しください」は「ビザを新しくする手続きは電車かバスできてください」と言い換えることができます。この方法は、少しの意識で誰にでも使うことができる方法です。

(2)外国人支援の視点を活かした母子生活支援施設での支援

当施設の入所理由は、DV被害のほかに、母親や子どもの障がいや疾患、若年の母親で養育支援が必要、金銭課題などさまざまです。

そんな施設で母親たちと関わっていくと、どの方も自分なりの子育てを精一杯やってきたと感じます。周りに助けてくれる人がいなくて、自分なりに調べた方法でやってきたけれど、それが当たり前だったという方が多いです。さらに、説明されたけれどよくわからなかった、という声もよく聞きますし、実際に面接で受けた説明を聞くと、きちんと理解できていなかったということは少なくありません。このことは日本国籍の入所者にも共通しています。

それぞれに課題や背景があることを理解し、正しい情報を本人が理解できるように伝える。その際には、外国人支援を通して経験してきた丁寧な関わり方に加えて、「やさしい日本語」の手法が活かされています。

(3)「支援にアクセスしにくい」の本質――届けられない支援者と辿り着けない当事者

当施設を利用する外国籍の方たちは、DV被害を受けている方がほとんどです。繰り返しになりますが、彼女たちはDVから逃れて家を出る決心をする前、自分たちが使える制度があるとは知らなかった、どこにも相談できずに私的なネットワークの中で解決策を模索していた、相談先につながっても説明が理解できなかった、手続きが複雑で先に進めなかったなどの理由から、具体的な支援につながれなかったということがわかります。

つまり、支援にアクセスしにくいということは、実際には支援の情報を届けられなかったという支援者側の側面と、自分自身が支援に辿り着けなかった、あるいは何らかの事情で支援の手をつかみ返せなかったという利用者側の側面とがあるように感じます。それは、ただ支援の情報が相手に事務的に伝わればよいというものでもないことを表しています。

支援の現場では、その人のことを理解することがスタートとなります。どんな相手であっても、まずはその人自身を知ろうとすること、知るための努力をするということです。そして、一人ひとりの育ちの背景に違いがあることを知り、その違いを認めることで信頼関係の構築に結びついていくのだろうと思います。

そうしてできた関係であれば言葉を超えた関わりも可能となり、「この人の言うことなら信じてみようかな」「やってみようかな」と、そうして初めて私たちの言葉と意思が伝わり、支援につながることができるのではないかと思います。

3.おわりに

私たち第38回の研修団は、研修中にライン川やテムズ川にかかるたくさんの橋を渡ってきました。そんな私たち自身が、支援を必要とする人たちとの懸け橋になろうと声を掛け合い、「ブリッジ38」と団名を名づけました。

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ライン川にかかる橋Rheinkniebrücke

ドイツでは、児童および青少年の積極的な保護を強化する法律が2012年に制定されています。これは、早期支援のために保健所や学校、警察、病院や相談所などのネットワーク設置を義務づけたものです。このネットワークも、今では多くの専門機関と当事者とを結ぶ懸け橋となっているでしょうか。

情報が届きにくい人がいる、支援につながりにくい人がいる。今回の記事が、そんな方たちにとっての架け橋となり、必要な支援へとつながり、地域の中で暮らす一員として“統合”されることを願っています。

注・文献

【注】
* 正式名称は「移民の受け入れを設計し、統合を促進する」。

【文献】
・公益財団法人日本社会福祉士会 多文化ソーシャルワーク調査研究事業検討委員会(2019)「滞日外国人支援基礎力習得のためのガイドブック」
・花崎みさを(2004)『家族を創る―アジアの子たちの里親として―』草の根出版会
・公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2013)「第38回(2012年度)資生堂児童福祉海外研修報告書(ドイツ:デュッセルドルフ・ケルン、イギリス:ロンドン・ケント・オックスフォード)」

松原 恵之

小中学生のときに故兼松保一先生(元日本ユースホステル協会理事長、元中央大学教授)が主宰する野外教育活動に参加。高校生、大学生時代には運営スタッフとしてキャンプ・スキー指導とプログラム期間中の生活援助に関わる。千葉市児童相談所夜間指導員(千葉市嘱託職員)として3年間勤務後、淑徳大学社会学部社会福祉学科を卒業。社会福祉法人一粒会FAHこすもすで少年指導員として勤務。現在は母子支援員、個別対応職員。社会福祉士。放課後児童支援員。

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