行政の役割 ――アメリカ合衆国の実践から家族支援における協働を考える

執筆者

山根 千絵

第40回(2014年度)アメリカ研修団員 新見公立大学健康科学部健康保育学科 教員

本号のテーマについて

日本型早期支援を考える

児童福祉が「事後対応」から「予防・早期支援」へと大きく転換する今、海外研修の訪問国における先進事例と日本の現状を照らし合わせます。「早期支援」の理念や各国の多様な支援スタイルを紐解きながら、日本型早期支援モデルのあり方や、行政・民間・多職種が一体となる地域連携の可能性について、多角的な視点から議論を深めます。

目次

1.はじめに

私が参加した2014年度の海外研修では、アメリカ合衆国のコロラド州とニューヨーク州を視察しました。当時、現地では児童虐待の重症度やリスクなどに応じて対応を分ける「ディファレンシャル・レスポンス(Differential Response: DR)」という児童保護システムが整備され、全米に広がりつつありました。通報を受けて行われるスクリーニングとアセスメントにより、リスクレベルに応じた対応の分岐(法的介入を行う虐待調査と家族のニーズや家庭の状況に応じた支援プログラムの提供)が行われており、従来の「子どもの保護」中心の対応から「予防や家族支援」に重点を置いた対応へとシフトしていました。

さらに、このシステムを展開する中で、日本の都道府県や市区町村にあたる郡や市の公的機関(Child Protective Services: CPS)は民間団体と連携し、子どもや家族に必要なサービスやプログラムの提供に努めていました。これらのサービスやプログラムについては、研究機関の協力を得て効果検証がなされており、科学的根拠に基づいた実践(Evidence-based Practice: EBP)が行われていました。

2.アメリカ合衆国の児童保護システムと家族支援の動向

(1)DRの仕組みと対応のふり分け

DRのもとでは、CPSが児童虐待に関する通報(虐待通告)を受けると、対象となる家族のアセスメントを行い、支援の必要性について検討します。緊急度が高く、「子どもの保護」を要する場合、保護には至らないものの支援を要する「ハイリスク」、「軽度・中度」の場合、「支援不要」の4つに分類され、それぞれに応じた対応がなされていました。

視察したコロラド州のラリマー郡やアラパホ郡では、ハイリスクと評価された家庭に対してはさらなる調査が行われ、フォスターケア(里親養育)や施設入所などの家庭外措置が取られる場合(三次予防を含む)と、在宅支援(二次予防)が行われる場合とに分けられました。また、軽度・中度と評価された家族は在宅支援の対象とされ、家族が抱える問題の重篤化を防ぎ、親子分離に至ることがないよう家庭状況に応じた個別支援(一次および二次予防)が行われていました。一次予防から三次予防まで各家庭に提供される支援はさまざまな内容が用意され、支援を要する子どもと家族を支える仕組みが整えられていました(図)。こうした専門的な支援プログラムの実践や提供の多くは民間団体が担っており、CPSは多くの民間団体と連携することで、地域主導の支援を展開していました。

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図 DRの流れと提供されている予防的支援の区分(筆者作成)

※ 家族を対象として行われるアセスメントのこと。家族の強みに注目し、家族の安全性や機能を高めることを目的として行われる。

2018年には「家族ファースト予防サービス法(Family First Prevention Service Act: FFPSA)」が成立し、従来の事後対応型の介入から、予防サービスの選択を拡充し、親子分離自体を防ぐ取組みへと連邦レベルで移行しています。予防サービスを強化していくためには、民間団体の協力は不可欠であると考えられることから、CPSが家族支援を展開するうえで、民間団体は重要な役割を担う存在であるといえます。 

(2)家族を中心に据えた支援と地域を基盤にしたアプローチ

DRの実践において、保護やケアが必要な子どもに関する重要な決定を下す際には、ニュージーランドで開発されたFamily Group Conferenceの手法を取り入れた家族会議(Family Group Decision Making: FGDM)が行われていました。FGDMでは、家族や親族、家族を支援している人々が各種専門職とともに一堂に会して、子どもを守るためのプランを協力してつくり、実行していました。多民族社会であるアメリカ合衆国では、地域や家庭ごとに風習・宗教などの背景が異なります。子どもが生まれ育った地域で、子どもが身近な存在として感じている大人(家族など)との生活を継続することは、子どもの成長や発達においてとても重要です。また、親族や地域の関係者が支援プロセスに関わることで、子どもの安全確保や支援をその地域の中で持続的に受けることができます。このように、「家族を中心とし、地域を基盤とした支援(Family-Centered, Community-Based Care)」を提供することが支援者の共通認識として根づいていました。

海外研修に参加した当時、私は親子分離後の家族再統合の難しさを実感していました。そこで、研修での学びを通して、日本においても行政機関と児童福祉施設が協働し、予防的支援を強化することや地域の中で子育て家庭を包括的に支える体制構築に尽力すべきだと感じていました。

3.日本の行政機関における家族支援の現状

日本における児童虐待相談対応件数は、2024年度には約22万件と、依然として高水準で推移しています。児童虐待の通告対応を担う児童相談所では、子どもを守るための危機介入をはじめ、子どもと家族が安心して暮らすための継続的な支援を行うこととされています。しかし、実務にあたる職員は虐待通告の対応に追われる中、保護した子どもの保護者と対立関係が生じやすい構造も相まって、本来必要とされる「親子関係再構築」や「家族再統合」に向けた支援が十分に展開されているとは言い難い状況にあります。

このような状況下において、近年、児童虐待発生時の迅速・的確な対応を確保する観点から、相談対応件数の増加などに応じて児童福祉司の増員が図られたり、実務者の専門性の向上を目指して「こども家庭ソーシャルワーカー」認定資格が創設されたりしています。予防的支援(一次予防)については、市区町村に新たに創設された「こども家庭センター」において、その取組みが期待されています。これまで別々に取り扱われてきた母子保健機能と児童福祉機能が一体的になって、妊産婦や子育て家庭への相談支援を行い、切れ目のない包括的で継続的な支援をすることによって、児童虐待の予防的な対応が可能になると期待されています。

さらに、一部の市区町村において、「親子支援による虐待予防実証モデル事業」が実施され、予防的な介入プログラムの実証が行われています。民間団体や研究機関とともに効果検証を行い、市区町村の機能強化と虐待予防につなげられるよう取り組まれています。

4.行政機関と児童福祉施設の協働による家族支援の可能性

2024年度福祉行政報告例によると、児童相談所で対応している相談総数は約58万件ですが、施設入所や市町村などへの送致、児童家庭支援センターへの指導委託などを合わせても総数の1割にも満たないことから、そのほとんどが児童相談所で対応されていることがわかります(表)。また、こども家庭庁の調査(2026)によると、児童相談所において、児童虐待などの対応時に求められる家族支援をアメリカ合衆国のように民間団体に委託しているケースは全国で23件のみ(2025年4月1日現在)となっています。

表 2024(令和6)年度 児童相談所における相談対応種別件数

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現在、社会的養護を担う児童福祉施設においては、入所児童のケアや子どもの家庭復帰を目指した支援に加え、地域で暮らす子育て家庭を対象として地域のニーズに応じた支援が行われています。具体的には、子どもの居場所づくりや要支援家庭への訪問支援、市区町村から委託を受けた家庭支援事業などを担っています。地域の予防的な支援(一次および二次予防)から、虐待の再発防止を見据えた支援(三次予防)まで幅広い家族支援を取り扱っており、児童福祉施設における家族支援の専門性は高まっていると考えられます。そこで、児童福祉施設で展開されているこれらの支援を、家庭支援が求められる行政機関と協働し、ニーズを持つ子育て家庭に提供することができれば、さらなる支援の充実につながることが考えられます。ひとりでも多くの子どもが生まれ育った地域において身近な存在である家族とともに生活を継続できるよう、行政機関と児童福祉施設の協働による家族支援について、引き続き考えていきたいと思います。

文献

・PwCコンサルティング合同会社(2026)「令和7年度子ども子育て支援等推進調査研究事業 指定課題32 児童相談所の業務実施体制に関する調査研究」
・有限責任監査法人トーマツ(2026)「こども家庭庁委託事業 児童福祉司の階層別研修等業務一式 報告書」
・厚生労働省(2026)「令和6(2024)年度福祉行政報告例」
・こども家庭庁(2026)「資料集:社会的養育の推進に向けて(令和8年3月)」(最終アクセス日2026年7月30日)
・こども家庭庁(2025)「児童相談所関連データ」(最終アクセス日2026年7月30日)
・こども家庭庁(2023)「親子関係再構築のための支援体制強化に関するガイドライン(令和5年12月)」(最終アクセス日2026年7月30日)
・公益財団法人資生堂子ども財団(2025)「第49回(2024 年度)資生堂児童福祉海外研修報告書(アメリカ合衆国:ニューヨーク州)」
・公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2015)「第40回(2014年度)資生堂児童福祉海外研修報告書(アメリカ合衆国:コロラド州・ワシントンD.C.・ニューヨーク州)」

山根 千絵

大学卒業後、社会福祉法人防府海北園に入職。児童養護施設において児童指導員、児童家庭支援センターにおいてソーシャルワーカーの職務に従事。海外研修後、働きながら大学院に通い、山口県立大学大学院健康福祉学研究科博士後期課程修了。この間、大学および専門学校において社会福祉士養成課程の教員、児童相談所の児童福祉司を経て、現在、新見公立大学健康科学部健康保育学科教員として保育者養成に従事している。

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