生きることを教えるエデュカタ、自立支援のためのヒント

執筆者

渡辺 葉一

第45回(2019年度)ポーランド・ベルギー研修団員 児童家庭支援センター岸和田 心理職

目次

1.エデュカタとの出会い

私は2019年の第45回資生堂児童福祉海外研修に参加し、ベルギーのフランス語共同体で「エデュカタ」という職業の方々と出会いました。通訳の方からは「勉強を教えるのが(学校の)先生、生き方全般を教えるのがエデュカタ」と説明を受けました。
私が出会ったエデュカタは、皆さん、とてもオープンで朗らか。仕事への誇りと自信を持っていること、自身の人生を楽しんでいることが伝わってきました。お話を聞き、一緒にいるだけで、こちらが元気になりました。私は「子どもの頃の自分に、こんな大人がそばにいてくれたら」と感じました。
ここでは「エデュカタ」を通して子どもの自立支援について考えたいと思います。

2.エデュカタによる支援の実際

帰国してからエデュカタについて調べてみると、ベルギーのフランス語共同体だけではなく、フランスでも活躍していると知りました。

ベルギーフランス語共同体では、

  • 利用者の日常生活支援や社会的自立の促進、教育・心理的な支援、家族や他職種との連携、社会的包括を目的とした活動を行う。
  • 活動場所は、児童保護関連施設、障害者支援施設、精神保健施設、ホスピス、高齢者施設、学校や地域福祉センターなど。
  • エデュカタには大学教育(3年制)で取得できる「専門的エデュカタ」の学士資格(A1)と職業高校で取得できる資格(A2)がある。A1資格は養成課程で理論(心理学・児童教育・教育倫理・関連する法律)と実習(1,500~2,000時間)、A2資格は理論と実習(680時間)を学ぶ。
    (名称や内容は多少異なるが、類似の資格と専門職がオランダ語共同体にもある)


フランスでは、

  • 児童保護・障害・成人の自立支援分野で中心的な役割を担っている。
  • 活動場所は、児童養護施設・母子生活支援施設・保育施設・学校・医療教育機関・病院など。
  • エデュカタは「専門的エデュケーター」という国家資格で、資格取得には3年間の養成課程で理論(1,450時間)と実習(2,100時間)を学ぶ。養成課程では実習での経験を理論に結びつけて理解を深めることが重視されている。
  • 2022年時点で123,000人の有資格者がいる。


実際の支援では、受容や傾聴で相手(子どもやその家族)との信頼関係の構築を目指し、特に相手の潜在的な力を見出すことを意識して関わります。相手の希望に合わせカフェや電車の中、ドライブなど、相手が話しやすい環境を整えます。また、支援する子どもや家族と一緒に食事をしたり、時には旅行(バカンス)にも同行します。エデュカタそれぞれの特技を活かした支援をすることが推奨されています。
私は、支援者が皆一律ではなく、それぞれの特技や強みを活かして、子ども支援に取り組むことが推奨されている点を羨ましく思いました。また、このことが海外研修の際に感じた、エデュカタの方たちの誇りと自信を持って仕事に取り組む姿勢や穏やかな雰囲気につながっているように思いました。

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ベルギーワッフル

エデュカタは横にいる・一緒にいるという教育的関係性を大切に、相手が望んだことを応援し、希望が叶うように支援をします。また、エデュカタ自身が感情を表出することも、子どもが生き方を学ぶためには必要なこととされています。
フランスのエデュカタであるパボさんが描く児童福祉についてのマンガ『ターラの夢見た家族生活』では、支援する子どもと一緒にいるときに、前の車の運転にイライラしたり、悩んだり、落ち込んだり、弱音を吐いたりするエデュカタの姿が描かれています。
人が怒りや悩みや悲しみにどう対処するのかを伝えるためには、実際にそれらの感情に取り組む大人の姿を見せる必要があります。大人にも失敗や弱い部分があるけれど、いろんな対処をすることで、なんとかやっていけている姿を見せます。
同時にエデュカタ自身が、自らの潜在的な力への自信を持ち、人生は生きるに値するものだと感じていることを伝えていきます。
それらを通して、子どもはそれまでの家庭環境では学ぶことのできなかった「生き方」について学びます。

3.自立支援に活かすエデュカタ的視点

私はこれまで児童養護施設から施設を巣立っていく子どもたちと関わってきました。子どもが施設を巣立つ際、子どもが幸せになるようにと、船の舳先をそっと押すように、子どもの人生(進路)を方向づけることはありませんか? 子どもの夢や希望よりも、生活の安定やリスクの低さを重視することを勧めてはいないでしょうか?
私は今回の海外研修で、そのことが実は子どもが自分自身の人生を選んで生きる権利を奪っているのだということに気づかされました。子どもは自分の生き方を決める権利も、失敗をする権利もあるのです。
また、施設から自立していく子どもたちの日々の生活面のチェックを重視し過ぎてしまうことはないですか?

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チェックリストの例

一つひとつの項目は、生活の質を上げるためには必要なことです。子どもたちによい習慣を身につけてもらうため、チェックリストは有効だとは思います。しかし、自立を始めた子どもには、支援者に自分の生活をチェックされるというのは負担となるでしょう。子どもの自立にこだわるあまり、支援者との関係が崩れてしまうとしたら本末転倒です。
では、どのような支援者に子どもは会いたいのでしょうか? 私はそのヒントが「エデュカタ」にあるように思います。

  • 自立する子どもの気持ちに寄り添い、願いが叶えるための支援をする。
    (子どもの願いが支援者から見て心配なものだとしても、子どもの願いを支援する/うまくいかないときは、一緒に受け止める。そして、子どもの次の願いを聞き支援をし続ける。本人が自分の人生の主役となるための条件を整える)
  • 子どもの持つ潜在的な力を信じて関わる。
    (全ての子どもがポジティブに変化できるという前提のうえで、その子どもに合う潜在的な力を発展させる機会や創造性のある機会を作り出す)
  • 支援者と子どもの双方の得意・好きなことを活かし、食事やドライブ、外出など一緒の時間を楽しむ。
  • 子どもは支援者が(自分と時間を共にすることを)楽しむために来てくれていると感じ、支援者も子どもとのかかわりを楽しむ。
  • 支援者は仕事に誇りを持ち、人生を楽しんでおり、それが子どもに自然と伝わる。
  • 支援者は子どもの相談に乗りつつ、自身が日々の困りごとにどう対処しているのかを子どもに見せながら関わる。


施設からの自立を迎えるとき、こんな支援者がそばにいてくれたら、子どもはとても心強いと思います。子どもがこれからの自分の人生をどうしたいのかを考えられるようになることは、自立後の人生への向き合い方に大きな影響を及ぼしていくはずです。
さぁ、私たちもエデュカタにならって仕事に誇りを持ち、人生を楽しみましょう。

文献

・安發明子(2023)『一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族』かもがわ出版
・安發明子(2023)「フランス『内閣府社会的結束総局』による専門的エデュケーターガイドライン」早稲田大学社会的養育研究所 https://waseda-ricsc.jp/content/uploads/2023/08/625e9491ce0c19196ca8fa9fd9a4a219.pdf(最終アクセス日:2025年8月18日)
公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2020)「第45回(2019年度)資生堂児童福祉海外研修報告書-ポーランド・ベルギー-」
公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2021)「第46回(2020年度)資生堂児童福祉海外研修報告書-フランス(パリ、セーヌ=サン=ドニ)リモート研修-」
・Le Media Social(フランスのソーシャルメディア)
https://www.lemediasocial.fr/qui-sont-les-professionnelles-du-social_kp1WSF?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR5HWarJBPwDIEGZ--2T9V-Am8nwXKBM4mg95NXw-c5iFXFyAsqDGaADtjgmLA_aem_lICS3DG0jnB5_7C2EBQzsg(最終アクセス日:2025年9月10日)
・パボ著/安發明子訳(2024)『ターラの夢見た家族生活-親子をまるごと支えるフランスの在宅教育支援-』サウザンブックス社

 *ベルギーのエデュカタ制度については、ベルギー研修コーディネーター兼通訳の栗田路子さんに調査をご協力いただきました。どうもありがとうございました。

渡辺 葉一

1977年生まれ。愛知県出身。 大学時代に不登校児らとのかかわりを通して、児童分野での仕事を志す。神戸大学大学院 総合人間科学研究科 博士前期課程修了。 大阪にある児童心理治療施設あゆみの丘へセラピストとして6年間勤務。その後、児童養護施設あおぞらにて心理療法担当職員として15年。 現在、児童家庭支援センター岸和田にて心理職。臨床心理士・公認心理士。

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