世界の子ども福祉~実践と未来~
第3回テーマ
「アドボカシーと子どもの権利」

執筆者
麻生 信也
第44回(2018年度)イギリス研修団長 第22回(1995年度)オーストラリア・ニュージーランド研修団員 児童養護施設杉並学園 施設長
本号のテーマについて
アドボカシーと子どもの権利
2024年に改正児童福祉法が施行され、子どもの意見聴取等措置や子どもの権利擁護に係る環境整備に関する取組みが本格化しています。 今回は、アドボカシーを中心に、海外の子どもの権利擁護に関する制度や児童福祉の現場における具体的な取組みを紹介しながら、日本の現状と課題を見直し、今後のあり方を見据えます。
好きなことに夢中になる、できないかもしれないけど挑戦してみる、友達と楽しく遊ぶ、こうしたことは一般的に子どもらしさの典型とされています。しかし児童養護施設(以下、施設)では、こうしたことが苦手で、まるで子どもらしさを奪われたかのような子どもに出会うことがあります。さらに、こうした子どもたちの中には、大人になっても生きづらさを抱えたまま生きていくことを余儀なくされることがあります。
そしてこうした子どもやその家族の多くは、「家族は仲が良くて互いに愛情を持っている」に代表される画一的な家族イメージと、自らが経験した深刻な虐待という現実との大きな隔たりや、コミュニティでの孤立に苦しむのです。
施設が提供する心理支援や自立支援などをもってしても、なおその回復や社会への自立が見込めない子どもや若者に出会うとき、またこうした子どもや若者の支援に疲れ切ってしまい施設現場を離れる職員を見るにつけ、これまで私たちが当たり前としてきた施設を取り巻く枠組みや、虐待対応で施設が果たしてきた役割そのものを変えるような大変革が必要なのではないかと考えるのです。
本稿では、まず回復や自立、修復やつながりを実現するための支援にありがちな課題のいくつかを整理し、さらに筆者が幸運にも参加の機会を得た第44回資生堂児童福祉海外研修での学びを共有します。そのうえで社会的養護の現場が抱える課題の解決に向けた取組み、さらにはこれからの支援のありようなどを議論するための糸口となることを目指します。
児童虐待の予防は、一次予防、二次予防、三次予防と三段階に分けられています(図1)。一次予防とは、すべての家庭を対象とした虐待を起こさせないための支援で、例えば、子育て支援サービスの充実や妊娠・出産期からの支援などです。こうした支援を通して子育て家庭の育児不安や孤立を軽減、緩和させ、虐待の発生そのものを予防することを目的としています。
次に二次予防は、虐待の発生リスクが高いと評価される家庭や虐待の発生が疑われる家庭を対象に、虐待を早期に発見して必要な支援につなげ、虐待の深刻化を防ぐ段階です。乳幼児健診や学校などでの健康診断などの際に医師や保健師などがそのリスクや兆候に気づくことがあります。また、保育所や幼稚園、学校や病院などから、児童相談所に相談や通告が寄せられることもあります。早期に介入して子どもや保護者を支援につなげることを目的としています。
そして三次予防は、虐待の発生による危機介入後の再発防止と回復支援を指し、児童相談所による一時保護や施設入所、子どもの心理的ケア、家族支援、家庭復帰後の継続的な見守りなどが含まれます。子どもの安全を確保するとともに、心身の回復と健全な成長を支え、再び虐待が起こらないよう支援することが目的です。

図1 児童虐待の予防の三段階(一次予防・二次予防・三次予防)(筆者作成)
三次予防としての危機介入後の再発防止と回復への支援は、社会的養護に課せられた役割です。家庭内で深刻な虐待が起きたとき、子どもは行政機関によって保護され社会的養護にやってきます。施設ではこうした子どもに対して心身の回復を図り、それをもって自立できるよう支援するとともに、その家族が関係性を修復し、さらにコミュニティとのつながりを実感できるよう支援しています。しかし深刻な虐待を経験した子どもの回復の道のりはとても険しく困難なものです。
また、深刻な虐待が起きた家庭や、保護されて施設で暮らすようになった子どもに対する社会のまなざしには、一般的には起きないことが起きてしまった家庭、特定の社会階層や環境の中で起きることといった認識があるように感じます。こうした認識は、施設での暮らしを経験する子どもや若者が、自らの生い立ちに強い劣等感をいだく要因の一つにもなり、回復の難しさや生きづらさの要因の一つになっているようです。
近年、社会的養護施設には多機能化が求められており、子育て短期支援事業や児童家庭支援センターなど地域での子育て支援に取り組む施設が増えてきました。施設の多機能化は、虐待の一次予防や二次予防に施設がいかに貢献できるか、虐待の発生や深刻化をいかに防ぐかという社会からの期待を込めた問いへの答えにもなるのだと思います。
(1)支援の難しい子ども
児童養護施設では入所児童の支援ニーズが複雑化、深刻化しており、支援の困難さが大きな課題となっています。
調査*1によると、児童養護施設入所児童の42.8%がなんらかの障がいがあるとされており、さらにグレーゾーンといわれる診断名はつかないものの日常生活に見えづらい困難がある子どももいます。こうした特性が支援ニーズとなっていることがあります。そして児童養護施設入所児童の7割が児童虐待を受けて入所していることから、特性に対する支援ニーズを抱えた子どもがさらに児童虐待を経験してしまうことが多くあります。また、2024(令和6)年度に全国の児童相談所が受理した児童虐待の相談対応件数は、22万3691件*2で、そのうち親子分離して社会的養護施設などに入所したのは4386件、割合にして約2%である*3ことから、長期にわたる虐待やネグレクト、激しい暴力といった深刻な虐待環境から保護された子どもが施設入所につながっていると推察されます。
こうした子どもたちは、感情のコントロールが極端に苦手で、些細な刺激に反応して激しい暴言や暴力が突然始まるという課題や、人間関係のストレスに弱くて他者の言動に傷つきやすく、とかくネガティブに考えがちで不登校やひきこもりといった状況になりやすいといった傾向があります。児童養護施設ではこうした支援ニーズに対して多職種や多機関での連携などを駆使して専門的な支援を提供しますが、それでも課題解決に時間がかかったり課題解決を見通せなかったりするケースもあります。こうした状況は現場で子どもたちに真摯に向き合う職員の疲弊を招き、志半ばでの早期離職につながることがあります。つまり支援の難しさは、実践の積み重ねや専門性の向上といった人材育成にも影を落とすのです。
(2)支援の難しい家族
児童養護施設で出会う入所児童の家族はそれまでにいくつかの支援機関につながったものの、支援者との間で苦しさの要因を共有するには至らず、親子分離という現実を前にして、支援者に思いが届かなかった、理解してもらえなかった、との思いを強くし、ゆえに心を閉ざし支援(者)を遠ざけようとさえしているように感じます。このように支援につながりづらい家族は、そもそも病気や障がい、さらには若年での妊娠と出産や、外国にルーツがあるなど、なんらかの福祉的支援ニーズを抱えて地域で孤立しがちな家族であることが多いように思います。
児童養護施設で家族支援を担う家庭支援専門相談員は、こうした家族とパートナーシップを組み、主体的に支援につながろうと思ってもらえるように寄り添いますが、期待するような関係性を築けずに苦労することも多くあります。
(3)職員の確保と育成の難しさ
多くの施設現場で人材確保がこれまでになく難しい状況が続いています。厚生労働省が2023(令和5)年度に立ち上げた「社会的養護魅力発信等事業」は、学生などに向けて児童養護施設などで働くことの魅力を発信することで人材確保に向けた取組み強化を図ることを目的としています。近年、児童養護施設など社会的養護施設での人材難が深刻であることが事業立ち上げの背景にあるのでしょう。
また施設職員には、その基盤となるソーシャルワークに加えて、ケアニーズの高い入所児童などを支援するためにトラウマやアタッチメントなどに関する知識など高い専門性が求められています。しかし職員がそのような力をどのような方法で習得するかについては、各施設での独自の取組みと、一部種別ごとの協議会や都道府県などの協議会などの取組みを組み合わせる、言ってしまえば継ぎはぎ式の研修などに委ねられています。
求められる専門性が高度になればなるほど、学ぶべき内容が職層や職種ごとに整理され、学ぶ機会が提供されるといった研修の体系化が必要なのだと思います。
さらに職員がキャリアに応じて習得した専門性を発揮するには、定期的にスーパーバイズやコンサルテーションを受ける機会が保障されていることや、小規模化によって施設内に複数できるようになった養育チーム内で、周囲の職員らとの支え合いの中で業務にあたることができる環境があることも重要ですが、こうしたことを念頭に組織をマネジメントする人材を育成する機会は極めて少ないのが現状です。

筆者が2018年に第44回資生堂児童福祉海外研修(訪問国:イギリス)で得た学びの一つがアーリーヘルプ(Early Help)と呼ばれる児童保護全体を貫く指針とも言えるものです。こうした指針のもとで予防や早期支援を実現するための多機関連携が法的根拠をもって推進されていました。介入や支援に必要な情報が多機関で共有され、特定の課題を抱えた家族の発見につながっていました。その特定の課題は3つあり、その1つ目は薬物やアルコールなどの依存症、2つ目は家庭内での暴力、3つ目は家族の精神疾患です。これら3つの課題のうちのいずれかを抱える家族では虐待が深刻化するリスクが高いとされ、そうなる前に介入し支援するのです。どの家庭に課題があるか、課題を発見した機関はどこか、支援の経過はどのようになっているかといった情報は、幼稚園や学校、病院や警察などの多機関間でタイムリーに共有されており、こうした多機関間での情報の管理と共有は、法的根拠を持つ多機関連携だからこそ可能となっていました。また、支援対象となる家族の同意のもとに支援が開始されることになっており、これは家族の主体性が尊重されていることの表れで、支援者と家族がwithの精神で課題の改善に向かっている様子がありました。
(1)アーリーヘルプの効果1
効果の1つ目は社会的養護児童の減少です。早期介入することで子どもやその家族の状況の改善が図られ、その結果親子分離するケースが減ります。支援の経過を受けて親子分離が必要となったとしても、これまで支援を受けていた家族はその主体性が守られていれば、行政機関や支援者を遠ざけることなく、いわゆる家庭復帰を視野に入れた対話重視型の支援が継続します。
「専門家」がつくった支援計画や支援目標がひとり歩きするのではなく、当事者である子どもと家族の、たとえ不十分であったとしてもそのありようが尊重されることが必要です。例えば家族の歴史が尊重され、地域コミュニティの中で社会資源が見いだされて活用され、さらには子どもの特性や成長といった文脈に沿って、子どもと家族が丸ごと受け入れられたという実感の中で支援を受けることができるための実践が目指されています。
課題のある家族から早期に保護された子どもは、虐待が深刻化してから保護された子どもに比べてその回復への道のりは明るく、見通しの良いものであることが多く、教育や健康などの面で将来的なアウトカムが期待できます。
(2)アーリーヘルプの効果2
効果の2つ目は財政への貢献です。虐待が深刻化し危機的状況になってから介入するのに比べて圧倒的に費用対効果が高く、同じ規模の財政負担でより多くの家庭を支援することができます。また、社会的養護児童の減少は、それを必要としている児童と家族などに対する集中的で手厚い支援を、財政的に可能にします。財政への貢献は、行政機関が虐待の予防や早期支援にかかる費用を支出することに対する地域住民の理解を得ることに役立ちます。
(3)アーリーヘルプの効果3
効果の3つ目はソーシャルワーカーの定着率向上への貢献です。ソーシャルワーカーには、深刻な虐待が起きて、ときには家族と対立関係にある中での危機介入が求められます。暴力などで心身ともに深く傷ついた子どもに接したり、怒りでわなわなと震える家族と接したりすることは、大きな心理的負担になります。不確実な中での介入は失敗につながることもあり、それは時に社会からのソーシャルワーカーに対する大きな批判につながります。一方で予防的にまたは早期に提供される家族支援では、子どもが受けている心身の傷も浅く、家族とも協調関係、パートナーシップが維持されやすいのです。深刻な虐待を受けた子どもとその家族に比べて、予防的にあるいは早期に支援が届いた子どもとその家族は、支援の効果が期待され、ソーシャルワーカーがそれを実感することがやりがいにつながります。やりがいを感じて働くソーシャルワーカーは、その知識と経験からさまざまなアイデアを出し、工夫して家族支援を展開するようになります。
イギリスでは、大学でソーシャルワークを学んで資格を取るほかに、ソーシャルワーク以外の分野を学んだ社会人が、必要な資格を取得するために働きながら修了できるコースや、短期間で修了できるコースなどの多様なルートがあり、人材確保に有効であるとうかがいました。
ソーシャルワーカーのための専門職団体である英国ソーシャルワーカー協会(BASW)を訪問した際には、職場も立場も異なる4人のソーシャルワーカーから人材育成についての体験談を聞くことができました。その語りから、人材育成を支える環境として、サポート体制があり互いに支え合える組織やチームであることや、人材育成を支える仕組みとして定期的なスーパーバイズと体系だった研修が行われることなどが重要であることを学びました。これらに加えて強調されていたのが、ソーシャルワーカーとしての自らの判断や決定を内省的に振り返り、実践を積み重ねるというソーシャルワーカーとしての姿勢でした。こうした環境や仕組み、姿勢があるからこそ、常に自らの仕事に誇りを持てるのだろうと感じました。
このような人材育成の展開に加え、虐待対応が危機介入から予防・早期支援へとシフトし、子どもやその家族の傷つきが浅い状態で支援につながるようになったことで、支援効果を実感し、困っている人の役に立ちたいというソーシャルワーカー共通のモチベーションが引き出されていました。
筆者は、こうしたイギリスでの学びを念頭におき、さらに全国児童養護施設協議会が作成した「改訂 児童養護施設の研修体系-人材育成のための指針-」を参考にした施設内における研修の体系化に取り組みました。特に愛着をテーマにした悉皆研修を複数年にわたって実施しました。そうした研修と合わせ、その効果が最大限に発揮される組織・チームを設計できるように実践を積み重ねたいと思っています。
児童養護施設は、入所児童とその家族が抱える高度な支援ニーズに対応する「高機能化」と、地域の子育て家庭や特定妊婦などを支援対象とする「多機能化」が求められています。これらを推進するためにはそれを担う人材の育成が不可欠です。
しかし、深刻な虐待により深く傷ついた子どもとその家族の回復への道のりには長い時間と大きな困難が伴うことや、そうした子どもと家族の支援の過程で疲労困憊し現場を離れるソーシャルワーカーが多くいることはこれまで述べてきた通りです。それでもなお、目の前にいる子どもたちの回復と育ちをどうにか支えなければならないことは言うまでもありません。施設現場ではそのために必要な支援を追求しなければなりません。しかし、虐待の予防・早期支援を実現することで、こうした困難が緩和されるであろうこともまたこれまで述べてきた通りです。筆者は、「もっと早く(虐待されている自分を)見つけてほしかった」と語る子どもに出会いました。今後子どもアドボカシーの普及とともに当時者の声がより多く聞かれるようになるでしょう。それは予防・早期支援の実現を推進する力になるのではないでしょうか。
多機能化を推進するという流れの中で児童養護施設をはじめとする社会的養護が果たせる役割はかつてに比べてはるかに大きくなりました。これからもさらに大きくなるでしょう。
社会的養護を語るうえでキーワードとなるであろう専門性の習得や多機関連携、人材の確保と育成などを考えるとき、虐待への予防・早期支援を重要な指針とすることでこれまでの事後対応型からの大きな変革が実現するのではないかと考えます。
【注】
*1 こども家庭庁「児童養護施設入所児童等調査」(最終アクセス日:2026年7月27日)
*2 こども家庭庁(2026)資料集「社会的養育の推進に向けて(令和8年3月)」(最終アクセス日:2026年7月27日)
*3 こども家庭庁(2026)資料集「社会的養育の推進に向けて(令和8年3月)」(最終アクセス日:2026年7月27日)
*4 https://www.basw.co.uk/(最終アクセス日:2026年8月24日)
【文献】
・内田良(2025)『増補「児童虐待」へのまなざし-社会現象はどう語られるのか-』岩波書店
・増沢高・田中恵子(2019)「平成30年度研究報告書 イギリスの児童福祉制度視察報告書」子どもの虹情報研修センター
・社会福祉法人全国社会福祉協議会全国児童養護施設協議会(2017)「改訂 児童養護施設の研修体系-人材育成のための指針-」(最終アクセス日:2026年8月23日)
・公益財団法人資生堂社会福祉事業財団(2019)「第44回(2018年度)資生堂児童福祉海外研修報告書(イギリス)」
麻生 信也
明治大学政治経済学部政治学科卒業、東洋大学福祉社会デザイン研究科博士前期課程修了。学生時代の学習ボランティアがきっかけで児童養護施設に児童指導員として入職。その後、施設長を経て、現在、児童養護施設杉並学園施設長。
子どもたちが希望をもって生きていける社会の実現を目指し、
資生堂子ども財団とともに子どもを支える仲間を探しています。