2025.10.31
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2025年度 資生堂児童福祉海外研修フォローアップセミナーを開催しました

本セミナーは、資生堂児童福祉海外研修修了者と児童福祉に関わる全ての方に向けて開催しています。研修団員が海外から学んだ知識を共有し、議論を加え発展させ、施設種別や世代を超えて交流を深める機会とします。
2025年度は以下の通り、開催しました。
<開催概要>
| 開催日時 | 2025年9月26日(金) |
| 開催形態 | ハイブリッド (㈱資生堂銀座ビルでのリアルとオンライン開催) |
| 参加者 | 86名(リアル17名、オンライン69名) |
| プログラム |
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増沢 高氏 (第37・44・47回特別講師、第23回団員、子どもの虹情報研修センター センター長)
発表者
南山 今日子氏(第49回子どもの虹研修センター職員として同行、第38回研究生、子どもの虹情報研修センター 研修部課長補佐)
南山氏の発表「エビデンスベーストの実践を考える」では、研修中、頻繁に聞いた「evidence-based(エビデンスベースト)」という言葉の意味と、その重要性について考察しました。アメリカでは2018年制定の連邦法Family First Prevention Services Act(FFPSA:ファミリーファースト予防サービス法)により、各州は科学的根拠に基づく介入を実施しなければ連邦資金を受け取れなくなることから、エビデンスに基づいたプログラムの導入が進められています。様々な実践が評価・認定され、専門機関による監督体制も整備されました。しかし、エビデンスとは単なる大規模データだけでなく、個々の事例や現場の知見も含まれ、分析や判断には主観も介在します。
南山氏は、現場の実践と研究者の協働による誠実な積み重ねが本当のエビデンスを生み出すと強調し、盲目的に信じるのではなく、その中身を吟味し続ける姿勢の大切さを訴えました。
発表者
木村 千菜実氏(第49回団員、至誠大空の家 家庭支援専門相談員)
木村氏は、FFPSA(ファミリーファースト予防サービス法)を中心に、子どもと家族が共に暮らすことを最優先とする児童福祉の政策と実践の転換について紹介しました。かつては子どもが家庭から分離された後の支援が中心でしたが、FFPSAでは、親の養育スキル向上やメンタルヘルス支援などの予防的な家族支援に連邦予算が投じられる仕組みになりました。
ニューヨーク州では、予防的支援の拡充のため、行政・NPO・研究機関が連携しながら、家族が孤立しないよう地域でのアウトリーチや居場所づくりを進めています。在宅での包括的支援が、家族分離の予防や家庭機能の改善に効果を上げていることを具体的なプログラム例を取り上げて報告しました。
発表の最後に、木村氏は、子どもと家族が安心して暮らせる環境を整えることの重要性を改めて実感した、今後も児童養護施設職員として現場での支援に力を尽くしていきたいと、思いを語りました。
発表者
夏谷 朔氏(第49回団員、宮城県さわらび学園 児童自立支援専門員)
夏谷氏は、ニューヨークの多様なコミュニティの現状と、児童福祉におけるコミュニティ支援の重要性を語りました。ニューヨークでは様々な人種や文化が混在し、貧困やギャングなどの社会問題が存在しますが、行政やNPO、研究機関が連携し、妊娠期から成人にいたるまで切れ目のない支援を提供しています。
夏谷氏は、ニューヨーク市によるアフタースクール支援や犯罪に関与した子どもを家族・地域から分離しない少年司法プログラム、民間団体による12年以上にわたり子どもに寄り添うメンター活動など、コミュニティを基盤とした多様な支援が展開されていることを報告し、日本でも、子どもが、育ってきたコミュニティと継続的につながれるよう、社会的養護施設が地域資源と連携し、退所後も定着支援を行うことの重要性を強調しました。
3氏の発表を受けて、久保田氏は「Family First(家族を最優先にする)」という考え方の意義について、子どもの愛着の視点から解説しました。子どもの健全な発達には、養育者との関係が長く続くこと、気持ちに答えてくれる大人の存在、安心して頼れる安全基地(secure base)が欠かせないと説明し、安全基地は、家庭だけでなく、里親や施設職員、地域の支援者など子どもにとって信頼できる大人が「代替的愛着対象(Alternative Attachment Figures)」として担うことができると述べました。
また支援の現場では、子ども一人ひとりの状況や変化の過程を丁寧に捉えることが大切であり、数値などの量的なデータだけではなく、子どもの様子や関係性など質的な情報も含めてエビデンスを積み重ねていく重要性を指摘しました。
また、増沢氏は、団員の発表で挙げられた3つのキーワードについて次のようなコメントを述べました。

廣瀬 嗣治氏(第40回団員、大野慈童園 家庭支援専門相談員)
内海 新祐氏(第32回団員、旭児童ホーム 臨床心理士)
シンポジウム後半は、2014年と2006年にそれぞれアメリカでの海外研修に参加した廣瀬氏と内海氏の発表から始まりました。両氏は自身が参加した研修からの知見と2024年度研修報告から、日本の児童福祉の今後の方向性について共通の課題意識について語りました。
廣瀬氏は、コミュニティや家族が持つ力や強みを活かした予防的で包括的な支援の重要性を強調し、トラウマに配慮した支援(トラウマ・インフォームド・ケア)やエビデンスベーストプログラムの導入、地域資源との連携、多機能化された支援体制の構築を提案しました。
内海氏は、アメリカで進められている予防的支援重視への転換を妥当とした上で、「エビデンス」や社会的養護児童人口の減少を評価する際の慎重な姿勢について述べました。予防的支援やファミリーファーストは重要である一方、保護されるべきケースが取りこぼされている懸念も示し、日本の児童福祉も、より実効性ある予防的・包括的支援へと進化していくために、柔軟なアセスメントや、地域・コミュニティへの積極的な介入、そして支援の質の向上が欠かせないと語りました。
続いて増沢氏は、日本の児童福祉の現状と課題を振り返り、2000年以降、虐待対応が進展した一方で、通告件数の増加、関係機関の連携の難しさ、マニュアル化による対応の形骸化などの問題点を指摘しました。支援を必要とする子どもが多くいる現状を踏まえ、早期支援の重要性と、子どもを中心に据えたソーシャルワークの展開を提案しました。さらに地域資源の活用や現状把握、支援効果の評価・検証を通じて、専門性を高め、上からの押し付けになりがちな支援のあり方-パターナリズムからの脱却を目指すべきだと強調しました。
最後に髙橋氏が、研修を通じて実感した日本との文化的な違いについて言及し、エビデンスベーストはアメリカの多様な価値観や背景を持つ人々を踏まえ、発展した枠組みだと受け止めたと述べました。また、現地では「Child abuse(児童虐待)」という言葉を耳にすることはほとんどなく、その理由を尋ねたところ、「虐待は結果であり、私たちはその予防に力を入れている」という回答があったと紹介しました。こうしたやり取りを通じて、髙橋氏は、現地職員の仕事に対する使命感や想い、専門性への誇り、支援の実践に対する姿勢を深く感じたと語りました。研修で得た学びを、団員のみならず、このようなセミナーの場を通じて広く共有し、現場で一人ひとりが実践に生かしていくことが重要だとしめくくりました。

それぞれの発表から、文化の違いやベースの違いを感じながらも、得たものをどのように活かせるかの葛藤も見えて、視野の広がりが伝わってきました。私自身は職員が研修で得てきたものを少しでも業務の中に取り入れ、活かせる環境をどのように作れるか考える機会となりました。
光と闇の話も印象的だったが、キーワードとして挙げていた3点については、いずれも日本の児童福祉がより良く変化していくために必要なポイントだと思います。日本らしさを大事にしながら、どのように反映できるか自分なりに考えていきたいです。
次回のフォローアップセミナーでは、第50回資生堂児童福祉海外研修(カナダ)で得た学びを報告予定です。
皆様のご参加をお待ちしております!
子どもたちが希望をもって生きていける社会の実現を目指し、
資生堂子ども財団とともに子どもを支える仲間を探しています。