2025.03.21
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海外研修
「大人には『意見を言える子ども』を育てる使命がある」ニュージーランド研修を終えた団員が語る新しい気づきとは【海外研修だよりvol.2】

公益財団法人 資生堂子ども財団が主催する資生堂児童福祉海外研修に参加した団員にインタビューを行い、研修の感想ややりがいなどを聞くコラムシリーズのこと。実際に研修に参加した方の言葉を通して、海外研修の様子をお届けします。
第2回目のゲストは第48回(2023年度)資生堂児童福祉海外研修団員の田畑 淳美さんです。
第48回はニュージーランドに渡航し、新たな子ども省のもとで再構築された児童家庭福祉システムとその実践における現状と課題、今後の方向性を学びました。ニュージーランド研修の実施は 15 年ぶりであり、前回研修時と比較して同国における政策や制度が時を経てどう変化したのかを確認する機会にもなりました。
| 研修名 | 第48回(2023年度) 資生堂児童福祉海外研修 |
| 研修国 | ニュージーランド |
| 研修団員数 | 10名(研修団長と特別講師含む) |
| 研修期間 | 渡航研修:2023年11月3日(金)~11日(土) リモート研修:11月20日(月) |
| 研修テーマ | ニュージーランドの児童家庭福祉システム |
第2回「海外研修だより」のゲストとして、田畑さんに6つの質問にお答えいただきました。是非ご一読ください!
※本記事に掲載されている写真の無断転用はお控えください。

(田畑さん)母子生活支援施設※「野菊荘」で、母子支援員主任として入所する母子の生活を支える仕事をしています。さまざまな課題を抱えて入所される方に、どんな支援ができるのか悩むこともありますが、お子さんの成長をお母さんと一緒に喜び、時には一緒に悩んで、家族を一番近くで見守り、関わることができる仕事だと思っています。また、母子への心理支援も担当しています。入所する母子の中には、ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)の被害の影響を受けてきた方、精神的な課題や発達の課題を抱えている方などもいらっしゃいます。そういった方に対して、セラピーを担当する臨床心理士や児童の心理担当者と協力しながら心理支援が円滑に進むよう努めています。
※母子生活支援施設とは、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を対象とした施設を指す(※こども家庭庁資料集「社会的養育の推進に向けて(令和6年6月)」より)
(田畑さん)海外研修のことは、野菊荘からも何人か参加させていただいていたため、以前から知っていました。今回のニュージーランド研修は、施設長に声をかけていただいたことをきっかけに興味を持ちました。調べてみるとニュージーランドの児童福祉では家族療法や地域支援が活用されていて、母子生活支援施設での支援のヒントになりそうなことがたくさんあると知り、思い切って応募しました。

(田畑さん)現地に到着してすぐ、空港で、首元からあごにかけてタトゥーをしている方とすれ違いました。タトゥーの模様はとても精緻で複雑で、あれがマオリのタトゥーなのかな、とても綺麗だと思いました。その後、視察先でマオリの文化について聞く中でマオリのみなさんがルーツを大切にしていること、タトゥーの模様も部族の中で脈々と受け継がれている、とても神聖なものだと知り、感動しました。
視察では、さまざまなお話を伺いました。例えば、訪問支援を行う機関では、経済的課題のある家族には定期的に訪問し、管理を具体的に教えると聞きました。児童保護関連の研修機関では、教師や保育士などの専門職だけでなく医師やスポーツコーチなど、子どもに関わる全ての人を研修の対象にしていると聞きました。子どもを守り育むために、子どもを守る大人を支え、育てようとする姿勢が一貫して見られ、圧倒されました。しかし、団長や特別講師の先生方、他の団員と振り返りながら話す中で「これって日本でもこんな形でやってるよね」「日本には○○があるよね」との言葉に何度も自信をもらい、日本の児童福祉の良さや強みを再発見することもできました。
(以下写真)視察先でいただいたおもてなしのお菓子(左)や研修中に食べたご飯(右)

(田畑さん)現地でアドボカシーの取組みについて学び、子どもの目線に立ったアドボカシーが重要であり、大人には意見を言える子どもを育てる使命があると考えるようになりました。帰国後は、子どものことについて何か検討したり、決めたりするときには、お母さんと職員だけで相談するのでなく、子どもにも説明したり、子どもの意見を聞くことが重要だとお母さんに働きかけたり、必要な時には母子の面談に同席してお母さんと子どもの間を調整したりするなど、支援の中でアドボカシーを強く意識するようになりました。
(田畑さん)母子生活支援施設の多くは、戦後、母子に住居や仕事を提供することを目的に作られましたが、時代の移り変わりとともに、その役割は大きく変化しています。私が就職した頃は、DVから避難してきた母子の入所が多かったのですが、DVに関する法律の整備が進み、今は避難という形での施設への入所は減ってきています。一方で増えているのは、貧困や発達障がい、うつなど複合的な課題を抱えて入所する母子です。また、虐待による死亡児童は乳幼児が多く、早期の支援が必要との考えが広く知られるようになり、妊娠期からの入所も増えています。このように母子を取り巻く課題は多様化しており、母子生活支援施設も多様な課題に対応することが求められています。多様な課題にはケースに合わせた柔軟な対応が必要ですが、母子生活支援施設だけでできることではありません。さまざまな機関や団体が連携する必要があると私は考えています。ニュージーランドでは、大小さまざまな規模の機関や団体が役割や機能を補い合いながら支援をしていました。日本でも多様な機関や団体と連携・協力し、支援の輪が広がっていくよう取り組んでいきたいと考えています。
(田畑さん)この研修は、海外の知見を知ることはもちろんですが、日本の児童福祉を広く見るきっかけになり、日々の支援を振り返り見つめ直すことにもつながりました。そして、職種は違っても同じように児童家庭福祉の現場で働く団員たちとともに学べたことがとても心強かったです。先生方や団員のみんなとは、研修を終えた後もつながりがあり、日本全国に志を共にする仲間ができるのも、この研修の魅力だと思います。

「海外研修だよりvol.1」も是非こちらからご覧ください。
海外研修を通して得られた貴重な知見は、各回の研修参加者が「海外研修報告書」としてまとめています。資生堂子ども財団のウェブサイトでは、これまで発行した海外研修報告書をすべてご覧いただけます。
第48回海外研修の報告書はこちら
海外研修報告書一覧はこちら
さらに研修報告書の膨大な情報からエッセンスを抽出してご紹介する「海外研修ダイジェスト」もご用意しています。海外研修ダイジェストは、各回の研修テーマと時代背景の考察と過去の研修の内容紹介という2つのコンテンツで構成されています。
海外研修ダイジェストはこちら

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