2023.10.12
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2023年度資生堂児童福祉海外研修フォローアップセミナーを実施しました
これまで722名の修了者を輩出した「資生堂児童福祉海外研修」
児童福祉の最前線で活躍する修了者同士が期を跨いで互いに交流することで、新たなアイディアや機会を創出するきっかけになってほしいという想いで、5年振りにフォローアップセミナーが開催されました。当日の様子をお届けします!
下記要領で開催しました。
開催日時 | 2023年8月31日(木) |
開催形態 | ハイブリッド (㈱資生堂汐留オフィスでのリアル開催とオンライン開催) |
参加者 | 54名(会場参加 28名、オンライン 26名) |
プログラム |
第一部 第47回資生堂児童福祉海外研修報告(オーストラリア) |
現在は多民族・多文化主義で知られるオーストラリアですが、かつては白色人種以外の移住者を制限する白豪主義のもと、児童移民や先住民の児童隔離などの人種差別的政策が長らく採られていました。近年、政府による謝罪は行われたものの、子ども時代に親から強制的に引き離されて家族やコミュニティとのつながりを失い、今も苦しむ人々が数多く存在しています。
岡村氏は、こうした歴史的、社会的背景を踏まえてニューサウスウェールズ州(NSW州)における児童福祉の制度の概要と支援のあり方を紹介し、「多様性」「権利」の観点から以下のようにオーストラリア研修をまとめました。
〇 子ども家庭支援における多様性への対応
訪問した機関団体では、子どもと家族、支援者の文化への配慮など多様性重視の姿勢と実践がみられ、個々のニーズに対応する支援が行われていた。また政府・先住民当事者間は、対立的アプローチではなく対話による協働が図られていた。
〇 権利意識や権利の行使
多文化主義のもとで権利意識が自然に醸成される社会で、幼少期から相手を尊重するような権利教育が実施されており、意見を言う権利を行使できる場がある、また教育のためのリソースが充実していた。
岡村氏は「多様性は『自分とは違う“当たり前”があること』と同義であり、支援者として、自らの当たり前を押し付けていないか常に省み、子どもの悩みや揺れ動く思いに付き合い、子どもの声を聴くことを探求して困難の理解に努めていきたい。また大人も含めて権利について学んで意識を高め、子どもが日常的に意見を言い、それが尊重される経験を積み重ねられるよう日本におけるアドボカシーとは何かを模索していきたい。」と述べました。
シンポジウムでは最初に塩野氏より、地域において、早い段階で親子の課題やニーズに気づき、対応や支援につなげる取り組みについてお話しいただきました。
塩野氏はショートステイは家庭の課題が軽いうちに適切な支援につなげられるきっかけにもなると重要視され、施設への偏見や抵抗感を取り払い、信頼を得て利用してもらうため、地域の方々の施設見学を積極的に受け入れ、サービス利用者を大幅に増やされています。また児童家庭支援センターは、保健や福祉などの異なる領域間、官と民、里親と施設が協力して地域の親子のために支援をする中心となり、多くの関連機関の相互理解と連携を促進する「触媒のような存在」として機能すべきであると指摘されていました。
次に、児童虐待などの問題が発生・深刻化し、子どもが施設や里親のもとで暮らさなければならなくなるのを予防するための家庭支援の実践について、都留氏と芳賀氏より報告をいただきました。
都留氏からは乳児院が専門的機能をさらに高め、医療機関や児童福祉機関、行政等と連携しながら地域の乳幼児とその家族を包括的に支える拠点としてアップグレードしていく移行期にあることを、地域子育て支援センターでの具体的な取り組みとともにお話しいただきました。二葉乳児院がある新宿区は地縁や血縁が薄く、人口の10%弱は外国籍で、住民票を置いていない方も多いことなどから、地域のニーズを知るように努めると同時に、地域で利用できる支援があることを子育て中の家族に知ってもらい、必要な人に、早い時期から切れ目なく支援を行っていきたいとも話されていました。
2008年にニュージーランド研修に参加された芳賀氏からは、ニュージーランドの対人援助の基本的考え方であった「Strength Base」のアプローチの応用についてお話がありました。Strength、強みをベースにしたアプローチとは、家族が自分たちの強みを自覚し発揮できるように支援して、児童虐待などの家庭の課題解決や機能回復を目指すものです。芳賀氏は、家族のニーズを把握し支援を検討するためのアセスメント(評価)においても、家族の全体像を捉えるため、課題だけではなく強みにも焦点を当てることが重要であること、強みを重んじるアプローチが地域に定着することで支援機関の意識と発想、支援者と当事者間の関係性にも良い変化が生じることを指摘されていました。
松本氏からは、同氏が2021年に参加されたフランスオンライン研修からの学びと、その学びを活かした実践についての報告がありました。フランスにおいては、在宅での教育支援措置が積極的に実施され、子どもだけではなく、子どもが大切にしている家族がまるごと支援されていました。大村子供の家では児童養護施設を本体施設としてさまざまな福祉事業を展開していますが、子どもにとっても選択肢が豊富なフランスの支援体系を参考に、サービスメニューを充実させ、臨床心理士などの専門職を地域支援職員として配置したり、相談件数が増加している児童家庭支援センターの職員配置を強化したりなどの対応を進められています。設立時から「地域の駆け込み寺」として地域の母子に対する支援を広く実施してきた原点はそのままに、地域の在宅支援の拠点となるようにさらなる進化を遂げていきたいと述べられました。
シンポジストの発表を受け、コーディネーターの橋本 達昌 氏(児童家庭支援センター・児童養護施設・子育て支援センター一陽 統括所長)と増沢 高氏(子どもの虹情報研修センター 副センター長・研究部長)によるディスカッションが実施されました。
増沢氏は「報告から重要なヒントを得ることができた。ショートステイと一時保護者のニーズの高さ、一時保護中のアセスメントの実施と、アセスメントデータの連携機関への伝達は大事なポイントだ。」と述べ、橋本氏からは「諸外国の状況を学んで帰国すると視野が広がる。これから社会的養護-社会的養育をどう発展させるか考え、議論することが大事だと思っている。」とまとめられました。
セミナー終了後、株式会社資生堂汐留オフィスのカフェテリアで懇親会を実施しました。
たとえ初対面であっても海外研修修了者同士という絆は強く、互いの海外研修経験について語り合ったり、セミナー内容について熱く議論したり、会場は熱気に包まれました。コロナ禍で直接会う機会がなかった修了者同士が、久しぶりの再会に感動している場面も見られました。
修了者へのインタビューやおすすめの書籍紹介タイムなどを通して、情報交換の良い機会になりました。話題にあがった書籍を読者のみなさまにもお届けします。
終了後、参加者からは「同じ志をもつ仲間との交流が自分の活力になる」や「次に会う機会を楽しみにしている」などといった感想をいただきました。
海外研修の概要や歴史、研修内容や報告書は、ホームページ上でご覧いただけます。是非、ご覧ください。
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