第48回
【2023年度】ニュージーランド研修
ニュージーランドでは、2017年、児童保護の政策策定と実施を担う子ども若者家族サービス局が官民の機関横断プログラムと統合するかたちで子ども省(Oranga Tamariki -Ministry for Children)が設立されました。子ども省は、「全ての子どもが、家族、一族・サブ部族、部族によって安全に愛され、育てられ、コミュニティによって支えられている」をビジョンとし、早期支援と家族がともに暮らせるための継続的サポートを行い、世代間の負の連鎖からの脱却を目指しています。
第48回研修では、子ども省のもとで再構築された児童家庭福祉システムとその実践における現状と課題を学びました。日本では、2023年4月にこども家庭庁が発足しました。日本に先んじて省庁再編を行い、戦略的に児童家庭福祉システムとサービスを改革したニュージーランドの動向から、日本の将来像を議論しました。
研修参加者は、児童養護施設職員4名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員1名、児童自立支援施設職員1名と施設長1名、児童心理治療施設職員1名、子どもの虹情報研修センター研修部長1名の10名でした。研修は渡航研修8日間と帰国後のオンライン研修2回で実施しました。
ニュージーランドのアドボカシー機関VOYCE
ニュージーランドの子ども福祉の根拠法であるオランガタマリキ法では、国がガーディアンとなっている子どもに対して、本人が重要だと考えることや、保護プロセス及びサービスについての意見を表明する機会とそのためのサポートが提供されなければならないと定められています。そのためのアドボカシーサービスを提供するのが2017年に設立された「ヴォイス-ファカロンゴマイ(VOYCE-Whakarongo Mai)」です。「VOYCE」は「Voice Of the Young and Care Experienced」の略語で、Whakarongo Maiはマオリ語で「聴いてください」という意味です。
VOYCEでは5つの活動の柱を持ってアドボカシーを展開しています。
1つ目は子どもの声や気持ちの尊重です。アドボカシーとは子どもの声を代弁することで、何が最善かを決めることではないという考えのもとに活動を行っています。
2つ目は子ども同士、子どもが大切に思う人と子どもたちを結び付け、つなげることです。子ども自らが帰属するコミュニティがあるよう、コミュニティができるよう、サポートしています。
3つ目は子どもの声がケアシステムに反映されるよう、声の高まりを促進することです。
4つ目は子どもが将来に向けて力を養い、地域とつながることができるように学べるようにサポートすることです。
5つ目は子どもが自らをアドボケイトできるようにリーダーシップの力を醸成することです。
報告書のなかで、VOYCEでは1対1での信頼関係作りに重きを置き、当事者同士や当事者とコミュニティとのつながり作りを丁寧に行っており、声を集め、ケアシステムの変革へとつなげることに尽力していたと記されています。そして、これから日本でも高い専門性を持ったアドボケイトの養成が急務かつ必須であるとし、官・民・現場が強みを活かして連携協力して取り組むことができるかどうかが、制度発展の鍵となってくるのではないかと考察されています。
記事作成日:2024年4月
訪問国 | 訪問地 | 視察先/講師 | |
---|---|---|---|
ニュージーランド |
ウェリントン |
オランガタマリキ-子ども省 |
|
マナモコプナ-子ども若者コミッション |
|||
オークランド |
ヴォイス‐ファカロンゴマイ(子どもの声を聴く・つなぐNGO) |
||
トゥルキヘルスケアファミリースタートプログラム(保健と福祉の融合) |
|||
ウェリントン |
オープンホーム財団(キリスト教系NGO) |
||
エマージ アオテアロア(多機能型NGO) |
|||
バーナードズニュージーランド(歴史ある世界的NGO) |
|||
オークランド |
キア プアワイ(西洋のアプローチとマオリ文化の融合) |
||
グレンモア・ライトハウス(キア プアワイ短期入所施設) |
|||
ジュリー・カーター氏(里親、NGOワンビッグファミリー創設者) |
|||
ハミルトン |
チャイルドマターズ(児童保護に関わる研修機関) |
||
オークランド |
ブルーライト(青少年の犯罪予防・健全育成機関) |
||
ワイラウ・インターミディエイトスクール(中学校) |
※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載
コラムを読む
- 里親制度を学んで 石井公子さん(第6回)
- 福祉の神髄とアメリカンスピリッツ 太田一平さん(第15回)
- 一人ひとりの子どもにふさわしい社会(今) 側垣一也さん(第18回)
- 海外の虐待対応の取り組みから 増沢高さん(第23回)
- カナダから学んだアドボカシー 都留和光さん(第26回)
- 海外研修の意義と意味 中野智行さん(第27回)
- 多民族国家でみた家族を支える支援 麻生信也さん(第29回)
- 米国の虐待防止活動と治療の研修から学んだこと 田中恵子さん(第35回)
- 施設と里親、施設と家族とのかかわり 山高京子さん(第37回)
- 罪を犯した少年や非行少年への支援 関根礼さん(第39回)
- アメリカのエビデンスベーストプログラムとその実践 野々村一也さん(第40回)
- 周産期の母子を支える児童虐待の予防的支援 山森美由紀さん(第42回)
- 日本における児童福祉用語の変遷について 川松亮さん(第43回)
- イギリス児童福祉における協働と連携 工藤真祐子さん(第44回)
- フランスの子ども虐待、児童保護の考え方としくみ 坂口泰司さん(第46回)
- 子どもの安全を守る 倉成祥子さん(第47回)