第37回
【2011年度】スウェーデン、デンマーク研修

第37回研修では、高福祉を実現しているスウェーデンとデンマークを訪問し、北欧の児童福祉の歴史的背景と理念を学びながら、各種の関連機関・施設を視察し、日本の実情と照らし合わせて次世代に向けたあるべき児童福祉の姿を探る研修を行いました。
<研修のポイント>
・北欧児童福祉の理念、子どもの権利擁護の考え方
・児童福祉に関する具体的政策の概要と歴史、制度
・児童虐待:実態、施策の変遷、予防に重点をおいた現在の施策・法律・システム、いじめや体罰の防止、性的虐待対応のシステム、各種機関の役割と連携
・地域支援:地域の家庭支援
・社会的養護の実情:制度、里親と施設の役割、支援の実際、思春期問題への対応、里親への支援
研修参加者は、児童養護施設職員6名と施設長1名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員2名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、児童家庭支援センター1名、子どもの虹情報研修センター研修部長1名の14名でした 。研修日程は14日間でした。
児童若者家庭福祉の制度と施策、児童虐待対応、社会的養護のあり方
ストックホルム市ソーデルマルム地区(所管人口12万人)ソーシャルサービスの2010年の相談対応件数は942件で、その内訳は、身体的虐待44件、性的虐待11件(虐待行為の主体は家庭内に限らない)で、それ以外は、保護者のアルコール依存や養育不全などのネグレクト、子ども同士のいじめや暴力、DVや親の精神疾患、子どもの家庭内暴力や薬物使用、触法行為など非常に幅が広く、支援も総合的で虐待対応に限定されていませんでした。ソーシャルサービスが扱う児童虐待以外の問題は、子どもの健全育成や、子どもの権利擁護という視点に立てば、全て重要な問題で、児童虐待の背景にある、あるいは虐待の結果として生じてくるともいえる問題でした。
ソーシャルサービスは、任意の相談と通告の両方に対応していましたが、地域によっては、任意の相談はファミリーセンターが担い、通告のみソーシャルサービスが扱うところもありました。スウェーデンストックホルム郊外のスポンガ・テンスタ地区はその1つでした。スポンガ・テンスタ地区のソーシャルサービス・ファミリーリソース課では人口3万5千人をカバーし、対応するスタッフ数は15名で、通告ケースのみを扱っていました。ソーシャルサービスが虐待相談以外のさまざまな相談に対応できる体制にある主要な理由はここにありました。
スウェーデン、デンマークともに多くの地方行政がこの程度の人口規模で展開されていましたが、都市部は規模が大きくなり、ストックホルムのソーデルマルム地区のソーシャルサービスは人口12万人をカバーし、対応するスタッフは45名、デンマークのコペンハーゲンにあるブロンスホイ地区のソーシャルサービスは人口8万人をカバーし、そこで働くスタッフは90名でした。つまり規模の大きいソーシャルサービスは日本では規模の小さい児童相談所と同程度で、スタッフ配置は3~8倍の開きがあったというわけです。規模の小ささは、どこでどのような問題が生じているか把握がしやすく、1つの通報に対しても情報が集まりやすいという利点がありました。
(写真は、DV加害男性のための治療施設(デンマーク))。

記事作成日:2021年3月
訪問国 | 訪問地 | 視察先 | |
---|---|---|---|
スウェーデン | ストックホルム | ストックホルム市・ソーデルマルム・ソーシャルサービス | |
スポンガ・テンスタ・ソーシャルサービス・ファミリーリソース課 | |||
スポンガ・テンスタ・ファミリーセンター | |||
カロリンスカ病院内虐待防止部門ミオ | |||
バーンセントルム (子どもの権利擁護センター) | |||
BUP グリンデンクリニック (児童青年期精神医療施設) | |||
マリア・ウングドム(青少年の依存症治療センター) | |||
ジョバニス緊急及び短期避難所 | |||
アラクヴィンノスフス(女性の家)(DVシェルター) | |||
BRIS(子どもの電話相談) | |||
デンマーク | コペンハーゲン | コペンハーゲン市児童青年常任委員会 | |
国の不服申し立て審議会 | |||
ブロンスホイ・ソーシャルサービス | |||
ミゼルファート | ミゼルファート・ファミリーセンター | ||
グローストロップ | グローストロップ観察治療センター(乳幼児入所治療施設) | ||
コペンハーゲン | マザーヘルプ (DV 被害母子の支援センター) | ||
ダイアログ・モッド・ボルド(DV 加害男性治療施設) | |||
ミゼルファート | 千葉忠夫氏(日欧文化交流学院学院長)住みよい幸せの国のための方程式について |
※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載
コラム
施設と里親、施設と家族とのかかわり
第37回研修団員 児童養護施設 溢愛館(愛知) 山高京子
私たち37期団員が福祉大国として知られるスウェーデンとデンマークを視察したのは、今からちょうど10年前(2011年)のことになります。当時すでに、DV加害者の治療施設や薬物依存青少年のための治療センターなど日本では未だ手つかずの専門機関が設置され、実績と研究が重ねられていたことに感銘を受けたものです。社会的養護においては、デンマークの入所型治療施設を視察することができ、そこでもまた大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
デンマークの入所型治療施設は、乳幼児定員18名に対して常勤だけで45名の職員が配置され、子どものケアのみならず家族や里親への支援も綿密に行われていました。家族支援においては全職員が家庭訪問できる支援体制が整えられ、必要があれば家族も施設に滞在できるようになっていました。里親支援に至っては15年にわたる実績から施設が独自にマッチング方法を開発し、子どもに合う里親の開拓をも行っていました。施設主動の柔軟かつ積極的な取り組みは、当時の私たちにとって瞠目すべきことばかりでした。
研修から10年、日本の社会的養護における職員配置数も改善されつつあります。里親委託が推進され、施設は高機能化多機能化が求められ、家庭支援専門相談員や里親支援専門相談員も配置されるようになりました。施設の将来像は、私たちが10年前に見たデンマークの施設そのもののようです。行政により枠組みが整えられつつある今、施設を進化させるのは職員一人ひとりの柔軟かつ積極的な取り組みだということを私たちは教わっています。
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