第38回
【2012年度】ドイツ、イギリス研修

第38回研修では、イギリスとドイツを訪問し、児童福祉と社会的養護の歴史と実情を学びながら、日本の今後の児童福祉施設の機能と特長や、里親とその支援を行なう施設とのパートナーシップを探り、日本のあるべき児童福祉の将来像について考えました。
<研修のポイント>
・子どもの権利擁護の考え方、児童虐待対応・予防のシステム
・児童福祉の歴史と制度、具体的政策、地域支援の概要
・社会的養護の実情
制度、しくみ、虐待ケースへの対応、里親と施設の役割と協力体制、専門的ケア、自立への支援
・里親支援のシステムと実際
・児童福祉施設における支援の実際(支援環境、治療的支援、関係機関との協働)
研修参加者は、児童養護施設職員6名と施設長1名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員2名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、児童家庭支援センター1名、子どもの虹情報研修センター職員1名の14名でした 。研修日程は14日間でした。
児童福祉と社会的養護の歴史と現状、施設の機能と特長、里親と施設とのパートナーシップ
ドイツは、第2次大戦後、冷戦時代の東西の分裂や1990年の統合など、社会・経済・文化などで多くの困難な経験を重ねてきました。研修当時も、東西統一後の福祉と経済発展の両立、移民の受け入れとドイツ社会への統合、出生率上昇を図るための家族政策などの課題を抱えていました。とくに少子化や女性の就労に伴う保育需要の増加に対しては、数値目標を示し、保育施設の整備やその予算裏付けのための法改正も行い、子育てのしやすい社会環境を整えるための措置を講じていました。児童福祉については、予防・早期支援を進めるために、関連機関が情報を共有し協働して取り組むための制度の見直しを行っていました。賛否両論のある「赤ちゃんポスト」の設置からもわかる通り、「目の前の子どもの命を守る」という子ども中心の視点があると同時に、親の思いや意見を尊重し、子どもの養育に関する配慮権を保障するための法律も整備していました。こうした動きから、側垣一也研修団長は、報告書で、現代のドイツ社会が「家庭の子育て責任」から「社会の子育て責任」を重要とする考え方へシフトをし、社会全体で「家族に優しい国」を作ろうとする強い意志を感じた、と記しています。(写真は、SOSキンダードルフ(デュッセルドルフ)の青少年の居場所「青少年クラブ」の建物)。
イギリスの児童保護施策の重要なキーワードは「ワーキングトゥギャザー」と「significant harm(シグニフィカント・ハーム:重大な害)」でした。ワーキングトゥギャザーは、1989年の児童法に基づく、児童保護・児童福祉に関わる機関連携のためのガイドライン(Working Together to Safeguard Children)であり、定期的に見直しも行なわれていました。harmは、abuse(虐待)より幅広い概念として考えられ、大人の意図の有無にかかわらず子どもにとってharmであればすべて通告され対応される、すべての子どもに関わる概念でした。自治体はLSCB(Local Safeguarding Children Board)の設置を義務づけられ、子どもの成長に関わるすべてのharmについて情報共有と検証を行うことを求められていました。

記事作成日:2021年3月
訪問国 | 訪問地 | 視察先 | |
---|---|---|---|
ドイツ | デュッセルドルフ | ノルトライン・ヴェストファーレン州家族・子ども・青少年・文化・スポーツ省 | |
デュッセルドルフ市少年局 市立キッズヘルプセンター (児童入所ユニットなど) |
|||
ファミリエンティッシュ「家族のための地域同盟」 (家族政策提言会議) |
|||
ケルン | AJS NRW(ノルトライン・ヴェストファーレン州青少年健全育成保護協会) | ||
デュッセルドルフ | PAN NRW(里親養子縁組家族支援協会) | ||
SOS 子ども青少年支援センター デュッセルドルフ | |||
ケルン | SKF(女性の保護・支援団体) ハウス・アーデルハイト(母子入所施設)、モーゼの赤ちゃんウィンドウ(赤ちゃんポスト) | ||
デュッセルドルフ | ディアコニー デュッセルドルフ (キリスト教系社会福祉団体児童福祉サービス部門) |
||
KiD デュッセルドルフの子(児童アセスメント施設) | |||
EVK デュッセルドルフ福音派病院付属通所型治療機関 | |||
イギリス | ロンドン | ロンドン大学教育学部社会科学研究所 ・デイビッド・ゴフ氏(教授、研究所所長)「イングランド児童福祉における変化、5つの側面」 ・小川 紫保子氏 児童虐待の歴史、法律と施策の変遷、コミュニティーとチャリティーについて ・林 真澄美氏 心理的虐待の定義、件数、影響について |
|
ヒリンドン区地域児童保護委員会(LSCB) | |||
ファミリー・ライツ・グループ (家族の権利擁護・相談支援団体) |
|||
コインストリート・ファミリー・チルドレンズ・センター | |||
フォスター・ケア・アソシエーション(FCA) ロンドン(里親支援団体) |
|||
シェイマス・ジェニングス氏(FCAソーシャルワーカー)Ofsted(教育とソーシャルケアの第三者評価機関について)について | |||
ケント | カルデコット・ファウンデーション(入所型治療教育施設) | ||
オックスフォード | マルベリーブッシュ・スクール(入所型治療教育施設) |
※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載
コラムを読む
- 里親制度を学んで 石井公子さん(第6回)
- 福祉の神髄とアメリカンスピリッツ 太田一平さん(第15回)
- 一人ひとりの子どもにふさわしい社会(今) 側垣一也さん(第18回)
- 海外の虐待対応の取り組みから 増沢高さん(第23回)
- カナダから学んだアドボカシー 都留和光さん(第26回)
- 海外研修の意義と意味 中野智行さん(第27回)
- 多民族国家でみた家族を支える支援 麻生信也さん(第29回)
- 米国の虐待防止活動と治療の研修から学んだこと 田中恵子さん(第35回)
- 施設と里親、施設と家族とのかかわり 山高京子さん(第37回)
- 罪を犯した少年や非行少年への支援 関根礼さん(第39回)
- アメリカのエビデンスベーストプログラムとその実践 野々村一也さん(第40回)
- 周産期の母子を支える児童虐待の予防的支援 山森美由紀さん(第42回)
- 日本における児童福祉用語の変遷について 川松亮さん(第43回)
- イギリス児童福祉における協働と連携 工藤真祐子さん(第44回)
- フランスの子ども虐待、児童保護の考え方としくみ 坂口泰司さん(第46回)
- 子どもの安全を守る 倉成祥子さん(第47回)