第36回
【2010年度】アメリカ研修
第36回研修も、前年度の研修に続き、アメリカで、トラウマケアとヘルシーファミリーについての研修を行いました。トラウマケアについては、マサチューセッツ州ブルックラインにあるボストントラウマセンターを再訪し、トラウマの癒しの様々な治療形態と治療施設における応用事例を学び、ヘルシーファミリーについては、フロリダ州ピネラスを訪れ、愛着を深める家庭訪問事業を支える問題解決プログラムを学びました。
研修参加者は、児童養護施設職員6名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員2名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、児童家庭支援センター1名、大学助教授1名の13名でした 。研修日程は15日間でした。
トラウマ治療と施設での応用(トラウマセンター)、家庭訪問を支えるラップアラウンド(ヘルシーファミリー)
研修団は、トラウマセンターで学んだことのすべてが、トラウマ・インフォームド(トラウマについての知識を持ち、対応方法をよく知っている)という言葉に集約されるとしています。トラウマ・インフォームドに取り組むことで、治療的な養育を効果的に行い、入所期間を短期化して早期の家庭復帰を可能とし、本来の社会的養護を担う専門性を持った施設に変わっていける、として、日本でも、地方公共団体や各種機関が、施設現場をいくえにも包み込んで支えるラップアラウンドメンバーの一員となってほしいという切実な希望を述べていました。
ヘルシーファミリーピネラス(HFP)は、400以上あるヘルシーファミリーアメリカ認可のプログラムの中でも、最も成功しているプログラムの1つといわれていました。その理由には次の5つがあると報告書では説明しています。
1つ目は、HFPはピネラス郡の財源から独立した委員会から出資される資金調達のかたちによってプログラム運営がなされ、質の高いプログラムが維持されていること。2つ目は、ラップアラウンド(包み込む)サービスという専門職によるネットワークによって、支援者が支えあい、専門性の高いプログラムが維持できていること。3つ目は、独自の細やかで、わかりやすいアセスメントシステムによって、取りこぼしのない支援が実現できていること。4つ目は、適切なプログラム実施のためのトレーニングシステムが整備されプログラムの品質が保たれていること。5つ目は、家庭訪問スタッフを支えるスーパービジョン体制が整えられていることでした。
研修団は、フロリダ州ピネラスとマサチューセッツ州ブルックラインでの研修を経て、子どもと家族が今持っている「強み」を活かし、治療や支援に当事者を巻き込んでいくこと、福祉領域においてトレーニングとスーパービジョンのシステムを確立すること、トラウマ・インフォームドなラップアラウンドシステムを構築すること、福祉現場と行政のコラボレーションを推進することの必要性を提言として挙げていました。
記事作成日:2021年3月
訪問州 | 訪問地 | 視察先 | |
---|---|---|---|
マサチューセッツ州 | ブルックライン | ブリガム・アンド・ウィメンズ・ホスピタル(婦人病院NICUカンガルーケア) | |
吉井聡氏(マサチューセッツ工科大学医師)脳生理学基本講義 | |||
ボストン トラウマセンター研修 ・ベッセル・バンデコーク博士(トラウマセンター創設者)「トラウマと脳」 ・トラウマと児童の発達への影響と愛着・自己調整・能力に関する講義と体験研修(ARC、PCIT、ヨガ、SMART) |
|||
コーハネット学院(児童治療施設) | |||
バンデコークセンター グレンヘブン学院(児童治療施設) | |||
ボストン大学:トラウマ治療としての協力的遊びと即興劇 | |||
フロリダ州 | ピネラス郡セントピーターズバーグ | ピネラス郡保健医療センター研修 ・ピネラス郡のヘルシー・ファミリー・プログラム(財源、機関連携、妊娠期からのアセスメントトカウンセリング、ラップアラウンドサービス含む) ・家庭訪問事業同行 |
|
ベイフロント・メディカル・センター・ベビー・プレイス | |||
COSA(薬物乱用者の親を持つ子発達障がいの子どもの保育園) | |||
ALPHA(母子施設) |
※報告書に記された内容に準じて記載
コラムを読む
- 里親制度を学んで 石井公子さん(第6回)
- 福祉の神髄とアメリカンスピリッツ 太田一平さん(第15回)
- 一人ひとりの子どもにふさわしい社会(今) 側垣一也さん(第18回)
- 海外の虐待対応の取り組みから 増沢高さん(第23回)
- カナダから学んだアドボカシー 都留和光さん(第26回)
- 海外研修の意義と意味 中野智行さん(第27回)
- 多民族国家でみた家族を支える支援 麻生信也さん(第29回)
- 米国の虐待防止活動と治療の研修から学んだこと 田中恵子さん(第35回)
- 施設と里親、施設と家族とのかかわり 山高京子さん(第37回)
- 罪を犯した少年や非行少年への支援 関根礼さん(第39回)
- アメリカのエビデンスベーストプログラムとその実践 野々村一也さん(第40回)
- 周産期の母子を支える児童虐待の予防的支援 山森美由紀さん(第42回)
- 日本における児童福祉用語の変遷について 川松亮さん(第43回)
- イギリス児童福祉における協働と連携 工藤真祐子さん(第44回)
- フランスの子ども虐待、児童保護の考え方としくみ 坂口泰司さん(第46回)
- 子どもの安全を守る 倉成祥子さん(第47回)