第34回

【2008年度】ニュージーランド研修

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第34回研修は、虐待をしてしまう親に対し適切な子育てができるように親族や地域社会が支援する体制が築かれているニュージーランドの「地域支援型被虐待児への対応」と、虐待予防と里親へのかかわりに関する政策とその実態についての研修を行いました。

<主な研修内容>
(1)ニュージーランド政府が推進する児童福祉の概要と重点施策
(2)地域支援型被虐待児への対応「ファミリーグループカンファレンス」
(3)ハイリスク及び困難なケースへの対応
(4)児童虐待予防及び早期介入の実情と実践
(5)里親制度と関連プログラム
(6)ニュージーランド政府の先進的な児童福祉制度

研修参加者は、児童養護施設職員6名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員1名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名と施設長1名、児童家庭支援センター1名、里親1名の13名でした 。研修日程は15日間でした。

ニュージーランドが推進する地域支援型被虐待児への対応

ニュージーランドは、歴史的にもまだ若く(建国1840年)、日本の4分の3の土地に400万人が暮らす小さな国でした。あまり裕福でなかった建国当時の状況が人々の間に「相互扶助」の心を育み、それは後に「世界一の高福祉国」と称される国の姿に結実しました。しかし、1970年代の石油危機で経済的ダメージを受け、80年代後半以降は「理想郷」としての姿を維持することが困難になりましたが、「福祉先進国」としての伝統は受け継がれました。その代表例が、研修の目玉でもあったファミリーグループカンファレンス(FGC)の開発と先駆的実践です。
1840年、その地の先住民であったマオリ族と、イギリスとの間で権利に関する条約として「ワイタンギ条約」(写真)が結ばれました。この条約は、マオリ族にとって不利な条件が多くありました。1986年、ニュージーランド国内の福祉の現状と、親族を中心に子どもを養育するマオリ族の伝統的な習わしが紹介された「プアオ・テ・アタ・ツ(Puao-te-Ata-tu=夜明け)報告書」が提出され、これをきっかけに、1989年、「子ども・青年及びその家族法」が成立し、それまでの子どもを家族から分離する“代替的ケア中心”の養育方法が、マオリ族が伝統的に用いてきた親族中心の養育方法である家族参画型のシステムを重視するものへと変わりました。そして「ファミリーグループカンファレンス(以下、FGC)」が誕生しました。

FGCは、法律に規定された、介入度の高いケースの家族と関係者が解決策・支援策をともに話し合う公式の会議です。単なる関係者間会議ではなく、法的根拠を持って参加者の義務や権利、経済的な支援まで規定されていることが特徴でした。1999年、マリー・コノリー(Marie Connelly)氏が「”専門家だけが問題点を知っている”という誤ったプロ意識を捨て、家族や地域が最も問題点を理解しているという視点を持ち、専門家による意思決定ではなく家族に力を与えていく実践にシフトしなければならない」と唱えました。また、クレイグ・スミス(Craig Smith)氏は、「FGCは、家族をエンパワーメントし、責任意識を引き出させるものである。専門家は黙っていなければならない」と主張しました。「あくまで家族と一緒に解決策を導き出す」、これはニュージーランドのソーシャルワークで一貫して使われる言葉でした。

記事作成日:2021年3月

訪問国 訪問地 視察先
ニュージーランド ウェリントン ニュージーランド社会開発省
・プラクティスフレームワーク
・対応モデル、協働の実践
・ファミリーグループカンファレンス
Epuni Care & Protection Residence(閉鎖施設、ファミリーホームタイプ施設)
クライストチャーチ Family Help Trust(ハイリスク家庭支援の地域組織) ・家庭訪問を行うソーシャルワーカーとのディスカッション ・クライアントとのディスカッション
オークランド、
およびオークランド郊外
Youth Horizons Trust
・専門的治療ケアによる里親ケア、居住型ケア
・里親とのディスカッション
Barnardos
・里親、レスパイトケアなどのプログラムサービス
・ファミリーグループホーム
クライストチャーチ ニュージーランド社会教育省
Kiwi Kids(就学前教育センター)
Kimihia Parent’s College & Kimihia Early Learning Center(高校分校、専門課程併設のシングルペアレント支援施設)
Lolli Pops(保育園)
ウェリントン テ ティリティ ワンタギ アーカイブ(公文書保管/博物館)


※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載

第34回 資生堂児童福祉海外研修報告書

2008年34回

第34回 資生堂児童福祉海外研修報告書

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