第33回
【2007年度】フランス、イギリス研修
日本の児童福祉はとくにアメリカの影響を大きく受けていると言われてきました。合理主義、競争主義をべ一スとするアメリカの児童福祉と、人権に焦点をおいたヨーロッパの児童福祉の違いを知ることが、日本の児童福祉の将来を考えるヒントにもつながるという観点から、第33回研修は、30年近く訪問していなかったフランスと、訪問が10年ぶりとなるイギリスで、下の内容の研修を実施しました。研修は、第32回研修と同様、知識や技術の習得を図る実践的なものとなりました。
<研修内容>
(1)フランス(パリ)社会福祉高等専門学校(ETSUP)
児童養護の全体像と施設養護実態やソーシャルワーカー育成方法等について学ぶ
(2)イギリス(ロンドン)全国児童虐待防止協会(NSPCC)
性的被虐待児の精神的回復に関する処遇技術研修
研修参加者は、児童養護施設職員6名と施設長1名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員1名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、児童家庭支援センター1名、自立援助ホーム職員1名の13名でした 。研修日程は15日間でした。
フランスとイギリスの児童虐待の考え方、被虐待児と保護者への対応
フランスでの施設入所は短期間を原則とし、最終目的はあくまでも早期家庭復帰にありました。そしてその短期の施設入所期間中に、親を指導し、家庭状況を改善することが難しい課題となっていました。在宅支援に対する費用は子ども1人あたり1日約12ユーロ(約1,980円)、施設養護では子ども1人につき1日140ユーロ(約23,100円)かかるということもあり、要養護児童対応は在宅支援が中心で、児童在宅支援ワーカーは1人あたり21~30人の子ども、または12~13世帯を担当していました。法務省の少年判事からハイリスクケースの支援を委託された場合、ワーカーは、ケース数が上限(県の条例で定められている)に達していても優先して対応しなければいけませんが、実際は、ウエイティングリストに載ったまま6ヵ月も放置されている子どもも多く存在するということでした。これは、支援に関する調査と判断のために長期の時間がかかり、財源不足で在宅支援ワーカーが不足していたためでした。
フランスの新たな児童福祉施策としては、24時間対応の児童虐待の全国電話サービス(受信数は2004年、年間230万件。匿名で相談できる)、煩雑な行政手続きなどを経ずに子どもを預かってもらえる避難所、学校不適応などの子どもを週5~15時間預かって支援するデイケアセンター、週5時間まで利用できる家族支援、週2~3日、子どもを預かって指導をし家庭での生活が継続できるように支援する一時保護施設などが紹介されました。(写真はフランスの児童養護施設シャトー・ドゥ・ヴォーセルの居室)。
イギリスの児童虐待対策は、1989年に制定された児童法(2004年改正)がベースになっていました。同法では、子どもの権利を最優先すること、親責任の内容、親と自治体が親責任を共有することなどについて規定していました。この児童法の制定を受け1991年に政府が発行した児童虐待対応の多機関協働ガイドライン「ワーキング・トゥギャザー(Working together to safeguard children)」(1999年、2006年に改訂)に基づき、児童保護の実践が行われていました。
研修団が研修を受けた全国児童虐待防止協会(NSPCC)は、児童保護の権限を持つ歴史ある民間団体で(子どもの権利条約が国連で採択された1989年に100周年を迎えていました)、高い認知度と大きな影響力を有し、科学的根拠に基づいた支援プログラムを積極的に開発し、全国で20以上の性的被害児童・青少年に対するサービス、12以上の家庭内暴力予防のプロジェクトを行っていました。研修団は、NSPCCで、イギリスの児童福祉と虐待対応の概要、NSPCCの活動のほか、トラウマを持つ子どもと青少年へのケアや家庭内暴力に関する取り組みついて学びました。
記事作成日:2021年3月
訪問国 | 訪問地 | 研修・視察先、研修項目 | |
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フランス | パリ | ETSUPエトシュープ(社会福祉高等専門学校)研修 「要保護児童、その保護者へのケアとフランスの新しい児童養護について」 |
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オードセーヌ | ビュゾンバル・ドゥ・シャンパーニュ(児童保護の介入、支援機関) ・社会教育支援について ・家庭支援専門相談員によるワークショップ |
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エソンヌ | フェルム・ドゥ・シャンパーニュ(小規模厚生施設・通所職業訓練所) | ||
イブリンヌ | サン二コラ(児童養護施設) | ||
ヴァルドワーズ | シャトー・ドゥ・ヴォーセル(児童養護施設) | ||
イギリス | ロンドン | NSPCC(全国児童虐待防止協会)研修 「被虐待者の精神的回復について」 ・DVを受けた子どもと女性への支援・保護 ・子どもと家庭へのサービス、ソーシャルワーカーの役割 ・フレッシュスタート(性的虐待対応プロジェクト) ・イギリスの児童保護(フォスターケア、トラウマを持つ子どもと青少年へのケア) |
※報告書に記された内容に準じて記載
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