第17回

【1990年度】オーストラリア研修

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少子化や核家族化により家庭の生活環境が年を追うごとに細分化され、家族関係は希薄化の一途をたどっていました。児童福祉施設の子どもたちに対する生活指導の重みはますます増し、社会に出た後の生活に大きな影響を及ぼすことが明らかでした。第17回研修では、「地域社会での児童福祉施設のあり方を探る」をテーマに、前年度に続き、この分野で先駆的対策がとられているオーストラリアを訪問して16ヵ所の視察を行い、児童福祉の政策と理念、施設児童の処遇実態と生活指導、施設の社会化と地域交流活動などを学びました。参加者は養護施設職員8名と施設長1名、教護院職員3名、母子寮職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、知的障害児施設職員1名、厚生省課長補佐 1名の16名で、日程は15日間でした。

地域社会での児童福祉施設のあり方を探る

オーストラリアでは、児童虐待とホームレスが児童福祉における大きな問題となっていました。報告書では、当時、オーストラリアで増加していた児童虐待の実情や保護対応、虐待防止運動などについて紙幅を割いて紹介しています。(写真はクイーンズランド州の心理的虐待防止啓発ポスター)。そして、虐待はあらゆる家族で起こり得る問題だが日本ではまだ十分クローズアップされていないとして、親権を親のための親権としてではなく子どものための親権として考え、虐待を人権擁護の問題として捉える価値観の変換が必要なのではないかと問いかけ、日本でも児童虐待が顕在化してくるであろうことから、家族問題に関する理解を深めるための方策が必要で、市民参加を視野に入れた子どもの権利保障の取り組みや、子どもの発達を保障する立場からの対応が急務であると論じています。

クライエントが権利主体として位置付けられ、国民的なボランティア精神が施設の地域化を推し進める力にもなっていたオーストラリアでは、援助する側にもされる側にもオープンな姿勢が見られました。こうした点や、施設が地域福祉の拠点となり、運営資金を公的補助のみに頼らず自己調達に努めていることなどを参考にしながら、日本の土壌に合ったやり方で、前年、国連で採択された「子どもの権利条約」の精神を根付かせたいと報告書では語られています。

記事作成日:2021年3月

訪問州 訪問地 視察先
ビクトリア州 メルボルン St.John's Homes for Boys & Girls(居住型児童養護、青少年、里親、地域相談のプログラム)
Child and Family Network(さまざまな課題をかかえた青少年と家族への援助、就職援助など。脱施設化事業推進)
Citymission Family Centre(若年出産の母子への支援、保育所、入居施設など)
Sutherland Homes for Children(居住型児童施設)
ニューサウスウェールズ州 シドニー Association of Chindren Welfare Agencies(児童福祉協会:民間機関の窓口、啓もう活動、研修機構)
Centacare, Catholic Family Welfare(児童福祉全般、結婚相談、身体障がい者へのサービス)
Department of Family and Community Services(ニューサウスウェールズ州家族及び地域福祉省)
Burnside Homes for Children(共同生活制度、里親制度、農場プログラムなど)
ニューカッスル Samaritan Foundation(若者や低所得者への宿泊施設と援助、児童虐待予防プログラムなど)
Newcasle Family Support Services(施設ケア、フォスターケア、家族支援プログラム)
クイーンズランド州 ブリスベン Department of Family Services and Aboriginal and Islander Affaires(家族及び地域社会省。ホームレス対策ユニット)
Abused Child Trust(家族への治療的援助)
John Oxley Youth Centre(少年院)
Queensland Centre for Prevention of Child Abuse(クイーンズランド州地域社会省児童虐待予防部)
Division of Child Family Welfare(情緒的行動的問題をもつ8~15歳を対象にした施設)
Children Court(児童裁判所)


※訪問順に記載。()内は報告書に記された名称や概要を記載

第17回 資生堂児童福祉海外研修団報告書

1990年17回

第17回 資生堂児童福祉海外研修団報告書

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