2000~2009【海外研修の歴史】

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児童虐待と家族支援にフォーカスしたプログラム研修【虐待防止法成立後】

子どもと家族をめぐる時代背景

1990年の1.57ショックを契機に少子化対策が継続的に進められていましたが、2005年、1899年に人口統計をとり始めて以来、初めて総人口が減少し、合計特殊出生率も1.26と過去最低を記録し、少子高齢化社会への進行に対する危機感が高まりました。翌年の2006年、対策強化を図るため、「新しい少子化対策について」が決定され、社会全体の意識改革と、全ての子どもと家族を大切にする観点からの施策が掲げられました。生後4ヵ月までの全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)の実施は、この施策の一環でもありました。

海外研修について

ミレニアムに沸いた2000年、児童相談所における虐待相談対応件数は17,725件で、統計を取り始めた1990年の1,101件に比べて10倍以上に増加していました。児童虐待相談件数の急増や、虐待によって命を落とす、あるいは重大な被害を受ける子どもの事件が繰り返し起きる状況に対応するため、2000年、「児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)」が成立し、その後も、法改正が重ねられ、児童虐待対応は強化されていきました。

こうしたなか、児童虐待は、2000年代の海外研修を貫くテーマとなりました。早期介入や地域ネットワークによる虐待予防、ハイリスクや困難リスクケースへの対応、性的虐待被害児童の精神的回復、修復的愛着療法、被虐待児の心の傷を癒す、などをテーマにした研修が2010年を含めて6回行われました。
なかでも、アメリカ在住のヘネシー澄子氏がコーディネートを行ったアメリカ研修では、虐待によるトラウマが子どもの発達に及ぼす影響や愛着との関連について、また最新のトラウマ治療や親支援のプログラムについて徹底して学びました。これら、アメリカの脳科学研究の知見に基づいた知識やエビデンスベースの実践プログラムは、その後、日本でもよく知られるようになり、例えば「ヘルシー・スタート」や「ヘルシー・ファミリー」は、乳児家庭全戸訪問と養育支援訪問の実践モデルとして利用されました(白石淑江, ヘルシー・スタートをモデルとした家庭訪問の試み,『世界の児童と母性』VOL.70, 2011-4)。

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第32回研修 赤ちゃんの脳神経回路の発達を理解するための演習(アメリカ)

2000年代研修には、もう一つの大事なテーマがありました。それは、カナダ在住の菊池幸工氏が企画したカナダやオセアニア研修で学んだ、家族を重視した地域支援のあり方でした。ニュージーランドのファミリー・グループ・カンファレンス、アウトリーチやユースの自立支援のプログラム、コミュニティをベースにした里親ケアなど、数多くのプログラムが紹介されました。アドボカシーや先住民の背景を持つ子どもへの支援は、その後のカナダとオセアニア研修でも継続的に取り上げられるテーマとなります。

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第34回研修 ファミリー・グループ・カンファレンスのロールプレイ(ニュージランド)

元号 年号 社会のできごと 子ども、女性、家族にかかわるできごとや事件
平成12年 2000 ストーカー規制法施行、日本初女性知事誕生(大阪府)、IT革命、介護保険法施行 児童虐待防止法成立(児童虐待の定義、住民の通告義務など)
平成13年 2001 アメリカ同時多発テロ、小泉内閣発足(構造改革)、失業率5%台、ハンセン病訴訟原告勝訴 尼崎児童虐待死事件、大阪池田小学校刃物男侵入児童8人殺害
平成14年 2002 初の日朝会談、デフレ不況、東京株式バブル後最安値、日韓共催サッカーW杯 子どもの虹情報研修センター設立、育児介護休業制度、学校完全週5日制
平成15年 2003 自衛隊イラク派遣決定、景気「底離れ」、世界各地でテロ、SARS流行 中学生による長崎男児殺害など少年事件多発、出生率1.29(戦後初めて1.3切る)、少子化社会対策基本法、子ども虐待による死亡事例等の検証開始、全養協:「児童養護施設の近未来像Ⅱ」、社会保障審議会「社会的養護のあり方に関する専門委員会」
平成16年 2004 新潟県中越地震、拉致被害者帰国、参院選自民敗北、EU25か国に拡大、イチロー大リーグ年間最多安打記録更新 児童虐待防止法・児童福祉法改正(児童虐待の定義の見直し、通告義務の範囲の拡大、市町村の役割明確化、要保護児童対策地域協議会法制化など)、小山市幼兄弟殺人事件(オレンジリボン運動の開始)、虐待通告相談件数33,000件、「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」設置、岸和田中学生虐待事件
平成17年 2005 衆院選自民圧勝、郵政民営化法成立、福知山線脱線事故、東証出来高バブル時上回る、世界各地でテロ、中国で半日デモ 虐待通告相談件数(児童相談所+市町村)7万件超、合計特殊出生率過去最低1.26、小学女児殺害事件相次ぐ、高一の犯罪事件続く
平成18年 2006 総人口戦後初めて前年下回る、中国経済高成長、北朝鮮核実験とミサイル発射、ライブドアショック いじめ自殺各地で続発、埼玉児童性的虐待事件、秋田児童連続殺害事件、秋田園児殺害事件、尼崎児童暴行事件、出生率1.32、キッザニア東京オープン
平成19年 2007 年金記録未統合5000万件、食品偽装各地で発覚、中国食品への安全性問題、米サブプライム問題 鹿児島県「赤ちゃんポスト」開始、児童虐待防止法・児童福祉法改正(立入調査等の強化、保護者への面会等の制限強化など)、モンスターペアレント、給食費未納問題、厚労省「今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会」中間とりまとめ、社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会(社会的養護体制整備の具体的施策検討)
平成20年 2008 秋葉原通り魔事件、岩手宮城内陸地震、後期高齢者医療制度開始、中国四川省大地震、金融危機世界に波及 児童福祉法改正(乳児家庭全戸訪問事業等の法定化と努力義務化、里親制度改正等家庭的養護の拡充など)
平成21年 2009 民主党選挙圧勝政権交代、新型インフルエンザ感染拡大(WHOパンデミック宣言)、裁判員裁判開始、日航経営危機、政府月例報告デフレ宣言、脳科学解説書ブーム 西淀川区女児虐待死事件、児童福祉法改正
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