第39回

2013年度
フィンランド、オランダ研修

虐待対応においては、世界的に、介入的支援から予防的支援が求められる方向に動いてきていました。第39回研修では、古くから予防的支援に力を入れてきたヨーロッパ北部のフィンランドとオランダを視察し、子どもと家族に対する予防的支援の実情、児童福祉施策の展開とこれに関連する児童福祉施設を含めた諸機関の現状と課題、保健・医療・教育などの多分野協働の実情を把握しました。そして、それらを踏まえて、地域の予防的支援も視野に入れた日本の児童福祉施設のあり方とともに、子どもと家庭への支援の方向性を探りました。

研修参加者は、児童養護施設職員6名、乳児院職員1名、母子生活支援施設職員2名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、児童家庭支援センター1名、大学教授1名の13名でした 。研修日程は15日間でした。

予防的支援、児童福祉施策と関連支援機関、
多分野協働

フィンランドでは、1920年に小児科医が始め、1944年に法制度化されたネウボラの存在が、妊娠期からの安心した子育てを家族に保障していました。女性の社会進出が進んだ1970年代初頭、出生率が低下し、1973年に合計特殊出生率が1.5と過去最低を記録しました。当時は、保育サービスなどが整備されておらず、働く母親には厳しい社会だったのです。政府は少子化対策に力を入れ、保育所の整備とともに、母親手当や出産及び育児休業、児童手当、在宅子育て手当など、自宅保育に対する支援の充実を図り、多様な保育を選択できるフィンランド特有の子育て支援システムが作られました。2012年には合計特殊出生率が1.8に増加し、フィンランドは、研修当時、最も子育てしやすい国と言われていました。児童福祉の制度やサービスは、子どもの権利条約に基づいて整備され、児童保護サービスは、子どもが自らの支援の決定に意思表明できる「参加」に重きを置いていました。

オランダでは、政府、州、基礎自治体が民間団体に事業を委託し、協力関係を作っていました。この基盤は強いソーシャルキャピタル(社会関係資本)にありました。国家プロジェクトとして干拓事業を進めてきたオランダは、干拓地を単位としてコミュニティのあらゆる人々が集まって協力や対話をする気風があり、それがソーシャルキャピタルを醸成してきました。民間が国や地方の政府に対して依頼心を持たず、連携をして社会を変えていこうとする風土と文化は児童福祉にも反映されており、コミュニティを社会資源として家族を支えるシステムが作られていました。

高橋久雄研修団長は、報告書で、両国の共通点は、「子どもの権利条約」を計画や実践のうえでの明確な基準としていることで、子どものために「家族」を支えることの大切さが、児童福祉の現場の中に共通認識としてあったと記しています。また両国ともに基軸としてた予防と早期発見・早期介入は支援を受ける家族だけではなく、支援をする機関や専門家にとってもリスクの軽減につながるとし、課題を抱える親を否定せずに支え、子どもの安全を守るため一時的に親子を離すことがあっても、最終目標は家族のリハビリテーションをしていくという考えの根底に、人間を尊重する思想がしっかりと根付いていると総括しています。
(写真は、家族のための入院治療部門があるタンペレ大学中央病院 乳幼児精神保健外来診療部の待合室兼ミーティングルーム)。

訪問国 訪問地 視察先
フィンランド ユヴァスキュラ 子どものオンブズマン
ヘルシンキ 国立健康福祉研究所
タンペレ ネウボラ 妊娠・出産・育児相談所
ヘルシンキ 家族ネウボラ(ファミリー・カウンセリング・オフィス)
オウルンキュラ・ファミリー・リハビリテーション
・センター
タンペレ タンペレ大学中央病院乳幼児精神保健外来診療部
ユヴァスキュラ 中央フィンランド中央病院 近親暴力防止センター
・プロジェクト
ヘルシンキ 母子の家とシェルター連合
首都圏シェルター・アソシエーション(母子シェルター)
SOS 子どもの村タピオラ(児童養護施設)
オランダ ユトレヒト 青少年保護局 BJZ
アムステルダム 児童擁護諮問委員会
ユトレヒト オランダ里親協会
アムステルダム ハルト(青少年犯罪防止・対策団体)
ハルト・プログラム現場:子ども動物園、高齢者施設
女性支援センター キューピッド
(性被害支援センター、予防のための性教育機関)
ポルスストック小学校
明日への希望(福祉団体)
プッテン ヒューマン・ホース・パワー
(ファミリーホーム、ユースケア牧場)

※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載

コラム

罪を犯した少年や非行少年への支援
 第39回研修団員 児童自立支援施設 国立武蔵野学院教務課 (埼玉)第6寮長 関根礼

研修に参加し、国によって政治や法制度、歴史的背景の違いはもちろん、国民性や文化、資源、風習の違いに大きな衝撃を受けたことをよく覚えている。
最初に訪れたフィンランドは、「ネウボラ」を中心とした妊娠期からの切れ目のない社会サービスを展開することで、「充実した福祉」、「女性の社会進出」を実現させており、「少年犯罪」や「非行」とは無縁だった記憶がある。
一方で、オランダは入国時の空港でコンドームの自動販売機があり、18歳以上の女性の売春が合法であることから「飾り窓」と呼ばれるエリアが観光地の一つになっている。また、街中にはコーヒーショップと呼ばれるソフトドラッグの小売店が平然と佇み、陰気臭さがプンプンとしていたことを鮮明に覚えている。しかし、実はいずれも、「望まない妊娠」や「性犯罪」、「重度の薬物中毒」を防ぐための「予防的観点」に基づいているものであった。非行少年への支援の実際においても、政府が明確に「施設養護」から「家庭的支援」への移行を打ち出し、犯罪レベルが軽微な段階での「早期介入」と「予防活動」に重点を置き、短期間での更生を促していた。軽犯罪を犯した青少年に対する代替的刑罰を科す社会奉仕活動現場(子ども動物園、高齢者施設、キリスト教系福祉団体)を実際に視察できたことは貴重な経験となった。
そんな一見対極的な両国が、当時の「子どもの幸福度ランキング」で1位(フィンランド)と2位(オランダ)を分かち合っていたことは意外であるが、共通していた特徴として「予防的支援」、「早期介入」、「家族支援」という3点が挙げられるだろう。
時が流れ、私事で恐縮だが、現在、36期団員の妻、5歳と2歳の実子とともに小舎夫婦制の寮運営を行い、全国各地から入所してくる非行少年たちと同じ屋根の下で生活している。実子たちは少年たちのことを「兄ちゃん」と呼び、毎日寮を駆け回っている。研修当時、交替制で勤務していた私は、「小舎夫婦制」の世界に飛び込むかどうかを悩んでいたが、フィンランド・オランダ研修を通して、自国の歴史的実践を継承することの必要性を実感し、決断することができた。それぞれの世界で活躍している団長や団員、資生堂財団の方々との出会いも、私の背中を押してくれた。これからも引き続き、わが国の非行少年たちとの出会いを大切にし、彼らと向き合い、彼らの今と将来のために精進していきたい。