第26回

1999年度
カナダ研修

第26回研修は、「子どもの権利擁護と福祉サービス」をテーマに、カナダのオンタリオ州とケベック州で研修を行いました。研修内容は、子どもの権利擁護、契約方式の福祉サービス、子どもの養育システム、児童福祉制度でした。研修参加者は、児童養護施設職員7名と施設長1名、母子生活支援施設職員1名、乳児院職員1名、児童自立支援施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、家庭裁判所調査官1名の13名で、日程は13日間でした。

子どもの権利擁護と福祉サービス

報告書の団長報告で、加賀美尤祥研修団長は、最初の視察先だった、日本の児童相談所にあたる民間機関「CAS Toronto」で、要養護児童のほとんどが被虐待児で保護後は家族との関係調整を大切にしていると聞き、虐待児童の入所が急速に増加し、施設養護の場を新たな混乱に陥れつつある日本の現状との共通問題を研修冒頭から見聞することになったと記しています。そして「国連子ども権利条約」の理念を盛り込んだオンタリオ州の「子ども家庭サービス法」やケベック州の「青少年保護法」などは、法律自体に学ぶべき点が多いだけではなく、法律条文の制度を実現していく社会的実践力がカナダにはあり、権利擁護の理念が生活の中に息づいていると評価しています。

カナダには子どもの権利擁護を推進するシステムとして、政府直営の子ども代弁機関であるアドボカシー事務所や子ども弁護士事務所などがあり、独立した機関のトップに大きな権限が認められていました。そしてそれぞれのトップに、ソーシャルワーカー、弁護士というその道の専門家が就任しており、そのカリスマ性や影響力の大きさには目を見張るものがありました。子どもアドボカシー事務所では、「子どもの意見を代弁すること」は「子どもが自分の中にある力を使い、自分の意見を言うのを助けること」と説明していました。加賀美団長は、日本では社会福祉事業法改正を目前にし、施設児童の苦情解決のためのシステムが導入されることになっているが、システムが形式的なものにとどまることがないよう、施設には、子どもが安心して自分の考えを述べる事を勇気づける存在となることが望まれるとしています。
(写真は、オンタリオ州子ども家庭サービス・アドボカシー事務所の組織)。

訪問州 訪問地 視察先
オンタリオ州 トロント トロント子ども援助協会(日本の児童相談所にあたる)
スカボロー トロント子ども援助協会スカボロー支部
トロント ペープ青少年資源センター(PARC)
(自立生活準備プログラム)
トロントカソリック子ども援助協会(CCAS)
フォスターケアサービス
(CCASスタッフ運営グループホーム(CCAS経営))
里親(Mr.Calvin Tarr)によるグループホーム
(CCAS経営)
ケベック州 モントリオール バットショウ青少年家庭センター
(児童相談所にあたる)※
プレボスト バットショウ青少年家庭センター
プレボストアンドショーブリッジキャンパス
(教育的・社会的更生施設)
オンタリオ州 オークビル シラップス・ユースセンター(保護・教育・更生施設)
トロント 子ども家庭サービスアドボカシー事務所
(子どものための代弁機関)
子ども弁護士事務所(子どもの法廷代弁を担う)
スカボロー オンタリオ州裁判所家事部(家庭裁判所)
トロント 日経文化センター保育所・幼稚園
ケベック州 モントリオール 人権及び青少年の権利委員会
(大人と子どもの権利擁護機関)
リーガルエイドオフィス
(弁護士事務所:州子どもの法的支援機関)

※報告書では「バショウ青少年家庭センター」

※報告書に記された順番、名称や表現に準じて記載

コラム

カナダから学んだアドボカシー、そして、ふた昔前と今の日本
 第26回研修団員、第45回研修団長 二葉乳児院(東京)院長 都留和光

第26回海外研修の事前研修で、大阪府立大学の許斐有先生から「子どもの権利擁護と福祉サービス」をテーマに、オンタリオ州のPARCの活動や子どもの権利擁護についての仕組みや、サービスの数々を学び、カナダという国に思いをはせた。当時、児童養護施設の職員として14年目を迎えていた私は、施設の中でも中堅のリーダー職でもあり、子どもの意見表明をどのようにすべきか、子どもたち主催の児童会の運営などのあり方にどう関わるか、職員としての関わり方について、悶々としていた時代である。日本が「子どもの権利条約」を批准して5年たっていたが、施設の中では特に変わらない状況があり、被措置児童虐待の問題が出てきて体罰の是非が議論されたり、児童虐待のケースが徐々に入所理由の中に散見されるようになった時代であった。当時は「養育困難」という入所理由がまだまだ多かったのである。
カナダのトロントに行き、「オリエンテーションテーブル」という言葉を初めて聞いた。親子分離の必要がある家庭で、家族と関係者に当事者の子どもも交えて、この先「どうすべきか」をケースワーカーがリードしながら話をしていた。当事者の子どもの意見もそこに必ず活かされる。子どもが自分のあり方を皆と考え、話し合える仕組みは、はじめの1歩として大切にされるべきことと頭に刻んだ。また、里親家庭については、それぞれの宗教宗派ごとに管理されていたことが、多種多様な生き方を尊重するカナダの都市のあり方を象徴する例として、記憶にある。
そして、PARCである。社会に巣立った施設出身の当事者団体であり、相談業務や交流サロンなどを行い、孤立を防ぐ取り組みを行っていた。20年後の日本にこれができるとは当時想像さえできなかったが、退所後の支援がクローズアップされている今こそ、である。
10年を一昔と言うならば、二昔前である。「昔々、あるところに…」の世界であるが、海外研修で得る貴重な経験は、何物にも代えがたく、生きる力の源になっている。