第23回

1996年度
ニュージーランド・オーストラリア研修

児童福祉法制定50周年を迎えるにあたって児童福祉施設のあり方についての議論が高まるなか、第23回研修では、「日本の児童福祉施設の将来のあり方(近未来像)を探る」をテーマに、オーストラリアとニュージーランドで、児童福祉に関する政策・理念及び将来の展望、児童に対するサービス、児童と地域社会の関係、児童虐待と児童保護制度について学びました。研修参加者は、養護施設職員7名と施設長1名、母子寮職員1名、乳児院職員1名、教護院職員2名、情緒障害児短期治療施設職員1名、厚生省専門官1名、家庭裁判所調査官1名の15名で、日程は11日間でした。

日本の児童福祉施設の将来のあり方(近未来像)を探る

ニュージーランドでは1989年の「児童・青年及び家庭法」の制定、オーストラリアでは1989年「児童・青年法」の制定により、福祉サービスの中心は家族支援となりました。「Placement Prevention(措置の予防)」の考えのもと、ぎりぎりまで子どもを家族のもとにおいて支援に努めるサービスを行っていました。要養護児童の施策については、両国ともに、非行問題への対応と施設の大規模化の反省から、施設の小規模化と家庭に近い形態のファミリーグループホームへの移行の段階を経て、里親ケアを主流とする施策へと変わっていました。在宅ケアと里親ケアの推進については、財政難による公務員の大幅削減や福祉予算の切り詰めも影響しているようだと報告書では推察されています。

オーストラリアでの被虐待児やその家族へのケアは、在宅支援サービスが圧倒的で、子どもに精神的な問題が生じている時は、精神科医やサイコセラピストなどによる外来治療も平行して行われていました。家族への支援サービスには、未婚の母親向け、10代の子どもを持つ親向け、子育ての不安を抱えている親向けなどさまざまなプログラムがあり、ほとんど民間団体が提供していました。虐待する親に対しては、親に力をつけさせて虐待を予防するための民間によるプログラムと、子どもを家族から分離する必要性が検討された時に実施される州政府によるプログラムがありました。ただし州政府の”プログラムの成功”の判断基準は、子どもが家族と一緒に住んでいることを指しており、虐待が起こる可能性をはらんだ不安な状況でも、何も起こらず一緒に住めていれば成功とする基準に疑問を持つワーカーや、安全性の理由から子どもの保護が必要なことがあるのは確かと考えているワーカーは多いようだと報告書に記されています。また政策によって家族に対する濃密なサービスが提供されるようになった一方で、虐待を受け心に深い傷をもつ子どもへの対応は在宅ケアでは十分でなく、問題が解決できないばかりか問題が先送りされ、「在宅→里親→ファミリーグループホーム→施設」と子どもが措置を重ねていく傾向が出現していると指摘されていました。
(写真は、オーストラリアビクトリア州ヒューマンサービス省での講義風景)。

訪問国 訪問地 視察先
ニュージーランド オークランド Auckland City Mission(慈善事業団体)
ニュージーランドの児童福祉政策、児童・青少年サービス、サービスと地域社会の関わり方、法的機関の機能、問題青少年の育成、ソーシャルワーカーの訓練についての講義
南オークランド Dingwall Trust(居住型養護施設)
(家庭支援、児童・青少年のケア、休日プログラム、教育プログラムなど)
オークランド Te Whare Ruruhau o Meri(マオリ族の家族支援施設)
New Zealand Children & Young Persons Services
(ニュージーランド児童・青少年家庭局)
Massey University
(ニュージーランドのソーシャルワークについての講義)
オーストラリア
ビクトリア州
メルボルン Department of Human Services
(ビクトリア州ヒューマンサービス省)
St.Jone's Care-Force
(フォスターケア、家族支援、ユースプログラム)
パークビル Turana Juvenile Justice Centre(少年司法センター)
ブランズウィック Brosnan Centre
(ユーストレーニングセンターを出所した青少年への支援機関)
メルボルン Christian Brother's Child, Youth and Family Services
(ファミリーグループホーム、スペシャリストサービス、Napierサービス、一時保護施設など)
キャンバーウェル Canterburry Family Centre(民間家庭支援機関)
(問題のある家庭への支援サービス、虐待児童の保護と予防、Families Firstプログラム)
メルボルン Ms.Robin CLARK
「養護施設からコミュニティをベースにしたケアへ」
カンタベリー St.John's Homes for Boys and Girls
(民間家庭支援機関)(コミュニティをベースにした青少年へのサービス)

※報告書に記された順番、名称や表現にほぼ準じて記載

コラム

海外の虐待対応の取り組みから日本を見て思うこと
 第23回研修団員、第37、44回研修特別講師 子どもの虹情報研修センター(神奈川)
 研究部長 増沢高

世界の虐待防止の取組みを俯瞰すると、1980年代までの児童虐待への対応は、児童を危害から保護することに焦点をあてた「児童保護」志向と予防に焦点をあてた「家族・児童福祉サービス」志向に大きく分かれていました。アメリカやイギリスは前者を重視し、後者は北欧やドイツ、フランス等の取組みが該当します。しかし1990年代に入って、「児童保護」志向であったアメリカやイギリスでも、介入し保護しただけではその後経過も思わしくなく、重症化する前の段階で、家庭訪問等を行うなど予防的な支援が効果的との認識を持つようになりました。
日本の虐待対応は、世界の歩みからずっと遅れて展開しました。90年代に入って、児童虐待が大きな社会問題となって、2000年に児童虐待防止法が制定され、以降、児童相談所の権限強化を中心に、介入と保護に関する制度強化を図ってきました。もちろん日本でも予防的な支援が必要として、市区町村の子育て支援の強化や、母子保健分野での虐待支援が法的にも打ち出されました。しかし、児童虐待は介入と保護の権限を持っている児童相談所に任せておけばいいという認識は根強く、早期支援のための取り組みは不十分と言っていいでしょう。
早期支援のためには、市区町村の子育て支援や母子保健だけでなく、保育所や学校など、日常的に子どものそばにいる支援者が、子どもへの配慮と支援を開始することです。市区町村には要保護児童対策地域協議会という機関協働による支援システムがありますが、形骸化したところが多いのが現状です。
児童虐待の背景には、子どもの貧困、家庭内のDV、親の精神疾やアルコール問題などがあり、日常的にこうした養育環境にいること自体が子どもにとっての逆境的体験となり、やがては家庭内虐待へと発展するリスクともなりえることが分かってきました。早期支援は、虐待と関連するこうした家庭問題に早期に気づき、子どもへの必要な配慮や支援を開始することです。それらがないまま子どもが年齢を重ねた場合、その影響は深刻で、成人になってからの精神疾患、身体疾患、貧困、犯罪のリスクさえも高めてしまいます。欧米ではこのエビデンスが共有されて、子どもの将来と地域社会全体の損失につながらないよう、子どもに関わる地域の機関が協働して、早期支援に力を注ぐようになっているのです。日本も世界的な動向から学び、早期支援についての認識の共有と機関協働による早期支援の充実強化が強く望まれるところです。