第20回

1993年度
カナダ・アメリカ研修

家庭機能の低下にともない、家族の崩壊、虐待、放任(ネグレクト)など、子どもにとって憂うべき現象が、世界の国々においても増加していました。第20回研修は、「『家族と子どもの権利』を考える」をテーマに、アメリカとカナダで、視察や講義など17の研修項目を実施しました。主たる研修国は人権意識が高いとされるカナダで、子どもの権利保護に対する理念、家族に対する考え方と家族の役割、児童虐待・ネグレクトと児童保護制度、ファミリーサービスを学び、子ども観、家族観について考えました。アメリカでは、児童福祉の理念と実情、方向性を学び、児童福祉の問題点と、民主党・クリントンの新政権における福祉施策の方向性についての理解を深めました。研修参加者は、養護施設職員10名と施設長1名、母子寮職員2名、乳児院職員2名、教護院職員3名、知的障害児施設職員1名、心身障害児施設職員1名、情緒障害児短期治療施設職員1名、大学教授1名、厚生省課長補佐 1名の16名で、日程は15日間でした。

「家族と子どもの権利」を考える

1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」では、ウェルフェア(Welfare)ではなくウェルビーイング(Well being)と言う言葉が用いられていました。訪問したカナダオンタリオ州では、児童福祉(child welfare)と言うと児童保護プログラムをさし、もっぱらウェルビーイングという概念が用いられていました。ケベック州も同じで、過去40年間に亘り、ビエンエットロ(Bien etre)という英語のウェルビーイングにあたる言葉が使用されていました。

トロント大学Ralf Garber教授は、講義で「ウェルビーイングは福祉の文脈で使われる保護のことではない。子どもをコミュニティと家庭の中で守ることがウェルビーイングにつながる。宣言・憲章・条約・新しい法律といったものはウェルビーイングに対する姿勢を変えなければ、本当の意味で有効ではない。その価値観が広く社会に受け入れられなくてはならない」と説きました。

研修の特別講師の駒沢大学高橋重宏教授は、ウェルビーイングという言葉が注目されてきた背景には、人権意識の高揚、伝統的な児童福祉が子どもや親に恥辱的な苦痛を与えてきた歴史への反省、事後的に対応するイルネス・モデルから、ウェルネス・モデル(健康の積極的増進、問題発生の予防など)への政策転換があると報告書に記しています。そして、次のような内容の、メトロポリタン・トロント・カソリックCAS所長の主張を紹介しています。「伝統的な児童福祉は、問題が起きてから対応してきたが、心理的に傷を受けた子どもの治療は難しい。昔は、学校が終わると、子どもは母親が待つ家に帰ることができ、家にいる母親と近隣のコミュニティが、子どものウェルビーイングを確保していた。現在は、帰っても家に母親がいない子どものケアのための体制ができていない。学校の登校日は年間185日だが、両親が共働きの場合、休みの180日間を子どもはどう過ごすのか。子どものウェルビーイングを確保するためのソーシャル・サービスを策定し、すべての子どもの健康な育成のため、社会は親のパートナーとなって問題の発生を防ぐようなプログラムを準備しなければならない」。
(写真は、トロント大学構内で児童家庭支援機関の認知度や人権意識の浸透度などについてのアンケートを行う団員の様子)。

訪問国 訪問地 視察先
カナダ オンタリオ州
トロントほか
Children’s Aid Society Metropolitan Toronto Scarborough Branch
(メトロポリタン トロント児童保護援助協会スカロボウ支部)
Thistletown Regional Centre for Children and Adolescents
(シッスルタウン児童・青少年トリートメントセンター)
Youthdate Treatment Centre
(ユースディール・トリートメント・センター)
Catholic Children's Aid Society of Metropolitan Toronto(カソリック児童保護援助協会)
Pape Adolescent Resoutce Centre(PARK)
(青少年の自立支援センター)
The Momiji Seniors Centre(Health Care Centre)
Japanese Family Service of Metropolitan Toronto
(日系人、日本人対象の情報、学習プログラムを提供)
講演「WelfareからWellbeingへ<「Wellbeing」とは>」
Ralf Garber教授(トロント大学ソーシャルワーク学部全学部長、世界社会事業学校連盟会長)
テーマ別研修
①Defence of Children International(DCI)
(児童の権利保護のための国際的団体)カナダの権利擁護の取り組みと現状
②Syl Apps School
(犯罪を犯した青少年の閉鎖ユニット、施設内分校)見学
③「里親について」座談会 Mrs. Jean Peasah
(CAS里親専門ソーシャルワーカー)
④Mr.David MacFarlane訪問「ダウン症患者自助グループについて」
(俳優、トロント大学教育学部特別教育課特別講師)
ケベック州
ケベックシティ
Ministere de la Sante et des services sociaux Edifice Cambray
(ケベック州保健社会省カンブレイ庁舎)
Universite Laval Ecole de service social
(ラヴァル大学。ソーシャルワーカーの養成、青少年権利保護委員会)
Centre de readaptation Mont d'Youville
(モン・ドゥーヴィル社会復帰センター)
(ケアが困難な子どもたちを対象としたエデュケーションセンター)
Centre d'accuell L'Escale(エスカル保護センター)
(児童のための指導・治療施設)
アメリカ ニューヨーク 多々良紀夫氏「アメリカにおける児童福祉の現状と今後の方向について」
(全米公的社会福祉協会調査研究部部長、国際社会福祉協議会米国委員会会長)
砂金玲子氏「ニューヨークの児童福祉 -見たこと聞いたこと」(ニューヨーク市児童福祉部スーパーバイザー)

※おおよそ訪問順に、報告書に記された名称・表現で記載