第15回

1988年度
アメリカ研修

いじめや登校拒否、非行など、子どもを取り巻く環境は依然として深刻で、種々の課題を抱えた要養護児童を健やかで思いやりのある子どもに育てるため、養護施設等の職員には、専門的知識と処遇技術の向上が望まれていました。また非行傾向を示す子どもの問題には家庭環境の影響が大きいとして、処遇には、とくに家庭に目を向けた視点が重要とされていました。第15回研修では、養護施設職員12名と施設長1名、教護院職員2名、厚生省課長補佐 1名の16名が、15日間の日程で、アメリカで9ヵ所の視察を行い、非行傾向を示す子どもへの処遇をテーマに広く家族指導についても学びました。

非行傾向を示す児童の処遇問題
~ファミリー・プログラムを含めて~

レーガン政権発足(1980年)後の要保護児童対策の基本は家庭支援の強化で、問題家庭に対する対応や、地域社会による支援を強調した施策が実施されていました。施設も小型化し、家庭的な処遇を目指す努力がうかがえました。アメリカでは、離婚、失業、貧困、遺棄、放任、麻薬やアルコール中毒、10代の妊娠、エイズ、問題児の高齢化などの「崩壊家庭における問題」が青少年の非行傾向の原因にも結びついて教育や保健の分野にも跨る問題になっており、子どもを取り巻くこうした問題がしばらくは国のアキレス腱となるだろうと、報告書では指摘されています。

子ども問題に対する関心が高まり、カリフォルニア州ロサンゼルス郡は、1984年、児童局を開設しました。これは連邦政府の「児童を家庭から出さなければならない事態を防止する」とした方針にも叶うものでした。児童局には3,700人の職員がおり(うち1,200人がスーパーバイザー)、45,000人の子どもとその家族を対象に、家庭の調査・判定、在宅指導、養子縁組、里親委託、グループホームへの入所措置等を行っていました。ボランティアによる活動も活発で、ソーシャルワーカー等民間有資格専門家も児童福祉事業に参加していました。児童局の予算は約480億円(連邦政府が82%を負担し、残りは郡政府不動産税等税収入で充当)で、その約3分の1は里親プログラムに使われていました。

アメリカの非行児とその家族への指導サービスには、カウンセリング、収容治療、グループホーム、アフターケアサーピス、学習カウンセリング、デイ処遇センター、結婚前カウンセリング、未婚の親へのカウンセリング、妊娠に関する教育、里親委託や養子縁組後のカウンセリング、ファミリー・セラピー、子どもと親に対するデイ・スクール、職業訓練センターなどがあり、細分化された専門家による早期治療で「家庭」の再構築に努力していました。さらに経済的援助や住宅援助をしながら家庭のすべての問題の解決を図ることに力を入れていました。(写真は両親教育に携わるボランティア相談員(シアトル))。また子どもが施設に入所した後には「ファミリー・ケースワーク」を要とした家族へのアプローチを行っており、家庭内で起きた問題で影響を受けた子どもの治療機関として施設が位置付けられている、と報告書では説明されています。

訪問州 訪問地 視察先
ワシントンDC U.S. Department of Human Health and Human Services, Office of Human Deveopment Services
(連邦政府厚生省人間開発局)
U.S. Department of Justice(連邦政府法務省)
マサチューセッツ州 ボストンほか The New England Home for Litter Wanderers
(情緒障害児収容治療施設/居住・通院型施設及びグループホーム)
Concord-Assabet Adolescent Services, Inc.
(緊急保護センター及び学校/思春期少女の居住型施設及びグループホーム)
ニューヨーク州 Parsons/Sage Fall Institute
(児童福祉専門職員向け秋季シンポジウム参加)
Cardinal McCloskey Children and Family Services
(多機能型児童福祉施設/居住・通院型養護保育施設及びグループホーム)
カリフォルニア州 ロサンゼルス County of Los Angeles, Department of Children's Seervices
(ロサンゼルス郡児童局)
Vista Del Mar Child-Care Services
(情緒障害児治療通所施設/総合養護施設)
ワシントン州 シアトル Children's Home Society of Washington
(多機能型児童福祉施設/居住型養護施設及び母子寮)

※報告書に記された名称・表現で記載

コラム

自由の女神を輝かせるアメリカンスピリッツ
 第15回研修団員、第32回研修団長 児童養護施設 八楽児童寮(愛知)
 施設長・NPO STARS代表理事 太田一平

私は、第15回研修で団員として、そして第32回研修では団長として、2回にわたりアメリカでの研修の機会を得た。第32回では、アメリカのコロラド州エバーグリーンにあるアタッチメント治療と訓練インスティチュートで愛着障害と修復的愛着療法について講義と演習を受けた。さらに研修先をオレゴン州セーラムに移し、「健康な出発(ヘルシースタート)」という児童虐待・放置予防プログラムについて学んだ。このヘルシースタートはのちに我が国の乳児家庭全戸訪問事業のモデルとなった。
第15回研修当時のアメリカは、レーガン大統領のとった経済政策”レーガノミックス”が財政収支赤字を生んだことから福祉政策は大幅に財政削減された。ある訪問先の施設で「今、アメリカが抱える最大の児童問題とは」と尋ねると「it’s a Reagan」と皮肉交じりの答えが返ってきた。政治と福祉との関係はいずこも同じであった。
アメリカ6大都市を駆け巡る中で、ニューヨークでの休日に自由の女神を見に行った。リバティー島へ行く渡船場に着くと、「自由の女神は大きいなぁ」と興奮していた日本人の若いカップルの姿を見た。そして船に乗船すると自由の女神はこれで三度目というテキサスから来た老夫婦に声をかけられたので、何故幾度も来るのか、大きさに魅せられてかと問うと、老人は「違うよ。その精神が素晴らしいからだよ」と笑いながら目を細めた。リバティー島に渡って、自由の女神の大きさに圧倒されつつも足元へ行くと、老夫婦の言ったその意味が解った。自由の女神の足下に、こう書かれてあったからだ。「食に飢える国の人々、貧しさに迷う人々、病に苦しむ人々、ここアメリカにやってきなさい。私はこの入江でトーチを持って皆さんが来るのを待っています」。アメリカはいかなる人々も受け入れる自由な国ですよ、と言っているのである。だからこそ自由の女神なのである。なぜ自由の女神というのか、その謎が解けた。自由の女神はその姿だけが美しいだけではない。その姿、形には、ふさわしい精神が宿っているからこそ、その老夫婦が何度も訪れるのであろう。まさに自由の女神は姿かたちが美しさを醸し出しているのではなく、内からなるアメリカンスピリッツがその姿を輝かせているのである。そこに私たちは福祉の真髄を見た。