INTERVIEWインタビュー
菊地 明重 様
株式会社リクルート サステナビリティ推進室 室長・記事作成日:2022年10月
社会的養護の児童に対する支援を協働で推進します
――リクルート様はサステナビリティ方針の中で5つの重点テーマとして「人権の尊重」、「環境の保全」、「多様性の尊重」、「機会格差の解消」、「働き方の進化」を掲げていますが、当財団にご興味を持っていただいたきっかけをお聞かせください。
当社は新しい価値の創造を通じ、社会の期待に応え、ひとりひとりが輝く豊かな世界を目指すという企業理念に基づき、サステナビリティ行動指針と5つの重点テーマを定めています。その中で「機会格差の解消」と「働き方の進化」に関連して、働くことに障害がある方々に自分らしい働き方を実現するためのプログラム「WORK FIT」を提供してきました。元々は就労が困難な方、ニートや引きこもりの状態にある方、あるいは少年院・刑務所に入所している方々が対象でしたが、若い層に届けることが難しいのが課題でした。特に日本では「働くこと」を学ぶための教育が不足していると感じ、その解決のために資生堂子ども財団の取り組みを通じて、児童に対してこのプログラムを提供できないかとお声掛けさせていただきました。
――資生堂子ども財団との協働の中で、御社の就労支援プログラムである「WORK FIT」をご提供いただいた理由について教えていただけますか。
資生堂子ども財団は、同じ志を持つ企業が手を取り合って社会福祉に取り組む、特に児童の未来を支援する活動を行っていらっしゃいます。残念ながら私たちの方は児童福祉分野への取り組みが遅れておりましたので、資生堂子ども財団と手を組むことで、児童福祉分野に貢献できたらと考えました。そこでリクルートが持つ「WORK FIT」プログラムを、資生堂子ども財団の社会的養護の児童向けセミナーであるスターターズセミナー用に改修して、強みを生かせるプログラムを作成しました。それを同セミナーに組み込ませていただき、社会的養護の児童の皆さんが、より自信を持って社会に出ていけるようになればと思っています。
――資生堂子ども財団との3年間の協働を通して、御社内から何かご反応等はございましたか。
子どもを持つ女性社員を中心に多くの反応がありました。「WORK FIT」セミナーは専任のスタッフが行いますが、司会進行をやりたい、取り組みに参加したいという申し出が増えました。また住まいに関する担当部署では、18歳で自立する児童養護施設の子どもたちに、部屋探しの段取り、選び方をきちんと知ってもらいたいという思いから、ハンドブックを作成し、スターターズセミナーにも住まいの選び方講座を組み込んでいただきました。また、資生堂子ども財団との本取り組みをきっかけに、私たちサステナビリティ推進室でも、児童養護施設で直接セミナーをはじめました。昨年(2021年)は12回実施することができ、これも資生堂子ども財団との取り組みの効果・成果だと感謝しております。 副次的な効果としては、この取り組みにかかわる従業員のエンゲージメントが強まったと考えており、その点でも貴重な協働機会だったと考えています。
――菊地様ご自身も里親をされていますが、現在の子どもたちを取り巻く環境にはどのような課題があると思われますか。
里親委託率の低さと登録里親数が増えないことです。実親が里親に預けることを拒むことも多く、里親を支援する態勢がより強く求められていることもありますが、最大の理由は里親という存在の認知度の低さだと考えています。福祉関係者でさえ「本物の里親に会ったのは初めて」という方が多く驚きました。東京都約720万世帯のうち委託里親数は350世帯以下、登録里親数も700世帯に満たないのが現実です。
また、児童養護施設や里親の元を巣立つ18歳以上の若者の支援も課題です。家庭で教わることの多い、社会で生きるために必要な知識や経験に乏しい場合もあり、職場に馴染めなかったり一人暮らしがうまくいかずに仕事や家を失うケースも多いです。こうした若者を支援する仕組み作りが急がれます。
――そのような課題を踏まえ、これからの社会において民間企業はどのような役割を期待されていると思われますか。
民間企業ができることは多く、児童相談所の里親委託業務を、民間企業に委託する試みが幾つかの自治体で始まっています。これにより里親委託率が少しでも上がることを期待しています。また、社内報などの広報活動や社外でのイベント活動で里親のことを取り上げていただき、一人でも多くの方が存在を知り、里親になってみたいと希望する人が出てくればいいなと思っています。
私たちリクルートでは、18歳以上の若者への支援として、資生堂子ども財団のスターターズセミナーの場等をお借りして、自分らしい仕事や正しい住宅の選び方などを、少しでも多くの若者に伝えていきたいと考えております。今後も資生堂子ども財団とともに、同じ志を持つ他の企業様とも協力して児童福祉分野において貢献活動ができれば幸いです。